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2011年5月19日 (木)

最高裁判決後の問題の整理

 
最高裁判決が出ても、依然、問題点は抱えているわけでして、
整理のために、現状の私の考える問題点を記載しておきたいと思います。

究極的には、「特許発明の実施」が何を意味しているのか?ということに尽きるのだと思います。


67条2項
 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。

67条の3
 審査官は、特許権の存続期間の延長登録の出願が次の各号の一に該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一  その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。


条文だけ読むと、特許発明の実施について、限定が付されているわけではありません。
ですので、新有効成分であっても、新剤形であっても、新効能であっても、新用量であっても、製造承認を受ければ、特許発明の実施において、薬事法上の処分は必要であったに該当するということになります。

しかしながら、現状の運用では、実質的に、新有効成分と新効能については延長登録が認められる一方で、新剤形や新用量において製造承認を得ても延長登録が認められない運用になっているわけです。

特許庁は、新効能と、新剤形、新用量との間に線を引く理由付けとして、68条の2を用いていたわけです。すなわち、67条2項の特許発明の実施は、「その」特許発明の実施であることからも単なる特許発明の実施を意味するものではないというスタンスです。


68条の2
 特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。


すなわち、新効能のみ認められるのは延長された後、その効力が、物又は物と用途において及ぶため、これを置き換えれば、物=有効成分であり、用途=効能・効果であるので、であれば、転じて、延長されるべきものは、有効成分と効能・効果で画されるはずというロジックであります。

今般、飯村コートなどの判決により、該ロジックは否定され続けた訳ですが、最高裁は、結論は容認しつつもかかる飯村コートのロジックを否定したものと捉えられるのではないかと考えています(であるから、新要件としての機軸を打ち出している)。その場合、逆説的に捉え、従前の特許庁の考え方は正しかったと言えるのかもしれませんが、最高裁が現状の運用は正しいと明示して認めたものでもないので、宙ぶらりんになってしまっていると感じてしまうわけです。

問題点その1
 まずは、有効成分と、効能・効果で判断する審査はOKなのか?
 最高裁の技術的範囲論は、該庁の運用までも駆逐するのか?

 ただし、今般の最高裁判決を金科玉条ととらえ、全ての案件で、「先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないとき」の要件のみで判断していくことにするのであれば、現状の庁の有効成分+効能効果論に基づく運用はひっくり返りますので、先発メーカーの臨床試験戦略は重要になってくることになります。
 
 医薬品メーカーの一戦略として、
①物質特許を取得
②先行する臨床試験の実施
③延長登録願1
④先行する臨床試験の状況を見て、適用拡大
⑤延長登録願2
ですが、有効成分+効能効果論が有効であるのであれば、延長登録願2も登録されますが、今般の最高裁の技術的範囲論でいくと、延長登録願1のみが登録されることになります。
この場合、先行する適用疾患の市場が大きければ問題ないですが、適用拡大部分でのパイが大きいような場合には、虫食い申請も認められている昨今、うれしくない状況が生まれます。
特に、現状、医薬品メーカーが注力しているような抗がん剤分野には、影響が大きいように思います。

問題点その2
 先行処分とは、別途の特許があるときに、後行処分とは、更に別の効能に係る第2後行処分を受けた場合、どのように扱われるのか?
 今般の最高裁の技術的範囲論が勝つのか、庁の有効成分+効能効果論が勝つのか、どっち?


とはいえ、これまでの、先発メーカーによる、幾多の東京高裁&知財高裁判決は、いわゆる、有効成分+効能効果論を支持しているわけですが、上告受理申立てを却下され、確定しているわけですから、最高裁判決の位置づけとしては、これまでの運用の上に変わる部分が付け加わったということになるのでしょうか。
 

特許庁の審査基準改定が待たれるところです。
なお、特許庁は、審査をストップさせた模様です。
特許権の存続期間の延長登録出願に関する審査基準及び審査の取扱いについて(http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/sonzoku_encho.htm)
平成23年5月16日
  

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