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2011年5月15日 (日)

平成21年(行ヒ)第326号

 
久々に特許で最高裁判決が出ましたので、ブログも久しぶりに更新です。

特許とは言っても、存続期間延長登録の可否に関する判決ですので、実務的に影響力は大きくても、弁理士万人が関連するものではありませんね。

私は、これまで、該制度について、非常に注力して勉強してきていましたので、色々と散文的に考察をしていきたいと思います。


まずは、最高裁判決文の中からのみで考えてみます。


本件では、平成20年(行ケ)第10460号のみが判示されているわけですが、
平成20年(行ケ)第10458号は、平成21年(行ヒ)第324号で判示されているようですので、
第10459号は、間をとって、平成21年(行ヒ)325号なんでしょう。
判決文のDBだと、タイトルの事件のみが公開されているような感じです。


上告代理人は、「須藤典明ほか」となっています。
日本弁護士連合会の検索ページで探してみても、ヒットしません。
一方、e-hokiの裁判官検索を行うと、お一方ヒットし、法務省訟務総括審議官というのをやられている方が出てきます。
ググってみても、同一人と思われる方がヒットします(書籍もそれなりに出されていて、法曹では著名人のようですね。)。

今は行政官かもしれませんが、本来司法に属する裁判官である方が最高裁に対し、行政に属する特許庁の代理人として訴えるという図式であろうと想像しておきます。


前置きが長くなりましたので、本題に戻しまして、
以下、おいおい事例との関係は述べて行きますが、
まずは、判決文だけから思いつくままに。


『2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。』
として、「2」で(1)~(5)として事実関係が述べられています。

2の中で目を引く部分は、(3)中の
『本件先行医薬品は、本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない。』
です。


「3」が判断部分になりますので、まずは、全文引用してみましょう。

『3 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。
 本件先行医薬品は,本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないのであるから,本件において,本件先行処分がされていることを根拠として,その特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない。』

そして、下線部分ですが、

『特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。』

ここだけ読むとWスタンダードの容認ととれなくもありませんね。
最高裁の考えはどうなんでしょうか?
というのも、現行、特許庁は、存続期間の延長登録の出願に対して、
物と用途、医薬品でいうなれば、有効成分と効能・効果を先行品と後行品(本件処分に相当するもの)とで対比して、いずれかが異なる場合に(通常は、効能・効果の差異に着目して)、延長登録を認めているわけです。

特許庁の審査基準には、

『(3) 一の特許権に対応する処分が複数あるとき
  一の特許権に対応する処分が複数ある場合、処分を受けた物が異なる処分(処分 において物の用途が特定されている場合にあっては、物又はその特 定される用途のいずれかが異なる処分)であれば、それぞれの処分を受けることはその特許発明の実施に必要であったと認 められるため、異なる複数の処分に基づく同一の特許権の存続期間の延長登録が処分ごとに認められる。
 例えば、医薬品に関する一の特許権に対して、有効成分又は効能・効果のいずれかが異なる複数の承認が与えられている場合には、それらの承認に基づく複数の延長登録が認められる。

(注) 政令で定める処分を受けた物と実質的に同一の物の取扱いについては、(4)を参照。

 逆に、有効成分及びその効能・効果が同一の他の承認(例えば剤型、製法等のみが異なる承認)を受けることは、当該特許発明の実施に必要であったとは認められないこととなるため、当該他の承認に基づく延長登録の出願は拒絶される。』

『(5)医薬品の承認等を受けた物の用途
 第一の処分を受けた物の用途と第二の処分を受けた同一の物の用途が一部重複している場合には、その重複部分を除いた用途についての特許発明の実施が、第二の処分を受 けることによって初めて可能となる 。したがって、第二の処分を受けることは、特許発明の実施に必要であったと認められることとなる。
 例えば、下位概念の用途(例えば、慢性アレルギー性鼻炎治療剤)を有する有効成分に対して承認が与えられた後 、上位概念の用途(例えば、アレルギー性鼻炎治療剤)を有する同一の有効成分に対して承認が与えられた場合には、上記の考え方に従 って、後者の承認を受けることも特許発明の実施に必要であったと認められることとなる。』

です。

本件では、(3)の考え方を複数の特許権がある場合というか、後行品をカバーする特許権がある場合にまで、拡大して適用したことが問われているわけですが、
(5)の場合や、(3)の効能・効果が異なる複数の承認が与えられている場合においては、
『先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないとき』
の要件が考慮されずに延長登録が認めらています。
すなわち、現在の存続期間の延長登録の実務では、
物質特許があって、先行処分が効能・効果X、後行処分が効能・効果Yの場合には、XとYが異なっていれば、あるいは、YがXを包含する場合でも、新効能・効果と評価される部分があれば、後行処分に基づいて延長登録が認められているわけです。
この場合、先行処分によって、先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲に属する場合になりますので、今回の新たな要件である
『先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないとき』
は、現行の審査基準の下での審査に合致することになるんでしょうか。
また、どのように条文を解釈していくのでしょうか。


私は、現状では、以下のように進んでいくのだろうと思っていますが、今後、産業構造審議会のWGも再開され動くでしょうからウォッチングしておきましょう。。

まずは、現行通り、有効成分と効能・効果で判断する。
一方が異なっていれば、延長登録を認める。
双方同じであっても、後行処分に係る特許権の存在を確認する。
先行処分に係る医薬品が、該特許権の技術的範囲に属していなければ、後行処分に基づく延長登録を認める。


有効成分と効能・効果が異なる場合には、技術的範囲に属するか否かというのは問われず、
すなわち、特許庁がこれまで行ってきており、今般の飯村コート判決が出るまでの裁判所の判断を踏襲するものといえるでしょう。
この特許庁の考え方の本質は、68条の2に基づくものであるとともに、特許庁が主張している、(私の解釈では)医薬の本質は、有効成分と効能・効果であるということになると思います。
すると、最高裁は、ここの考え方については、飯村コートの考え方を否定していると捉えることもでき、その後、出されている塩月コートの判決等にも影響はないのでしょうか?
おいおい、眺め直してみようと思います。

私の今後の実務に対する想像では、上記のように、(3)の例外的事例として、今般のようなケースが審査基準に定められ、特段大きな変更はないと想定していますが(承認される一事例が増えるに過ぎない)、より考察を深めていきたいと考えておる次第であります(浅はかな考えかもしれません)。

なお、最高裁が、現行の特許庁の運用を容認しているのではないかと考えたのは、
『後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,』
という前提を置いていることから、有効成分と、効能・効果に基づく現行審査基準を前提として考えて、両者が異質の場合は現行通り、同質の場合には、少し考慮が必要としているのではないかと考えたからです。


ただし、なぜならば以下の理由づけの部分が、今回の事例のような場合にのみ適用される考え方というのは若干、違和感を覚えます。存続期間延長登録制度全般にかかわる事項についての一般論に該当するともいえ、とても一般的なことを述べていないでしょうか?

『なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。』

この考え方でいけば、現行の、物質特許に対しての、効能・効果までを考慮して延長登録を認める特許庁の運用はありなのでしょうか?
68条の2の解釈としても、特許発明として用途が特定されている場合には、用途までみると読まないと上記の最高裁判決の、判示事項に沿うのか疑問が残ります。
この辺りは、もう少し考えてみたいと思います。


なお、最高裁は、
『そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。』
と続けますが、この部分では何を言いたいのでしょうか?
68条の2が有効成分、効能・効果において異なるときは、考慮するにしても、そうでない場合には、68条の2の解釈は関係なく、禁止されていた範囲が解除されたか否かで、製剤特許に対応する新規剤形医薬品(延長登録における新剤形医薬品の新規登録形態といえそうです)として、すなわち、新規有効成分医薬品のような場合と同様に延長登録を認めればよいというスタンスなのでしょうか?

今後、後行処分とは別の用途で同一製剤について処分がさらにあったとしても、延長登録は認めれないということを意味しているのでしょうか。
物質特許については、有効成分及び効能・効果の異同についても判断してよい。
製剤特許については、有効成分及び効能・効果の異同については判断してはいけない。
ということなのでしょうか?
製剤特許においては、延長登録のためには、一つ一つの有効成分や用途ごとに、他社排除の観点からすると、有効成分を特定せずに取得することが望まれることになりますが、
そうすると、改善多項性との関係で、まとめた大きい特許を取ると、延長登録の点では不利、個別具体的に細分化して権利を取得しておいた方が延長登録の点では有利となりますが、ここはおかしなことになりそうな気がします。

最高裁は、発明の本質は何かということを求めているのでしょうか。
『本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないのであるから』
との『いずれの』という判示事項にある意味戸惑いを覚えています。

今後、製剤特許の取り扱いがどうなっていくのかは、注視しておこうと思います。
 

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投稿: Byron | 2011年5月23日 (月) 00時01分

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