2008年7月 6日 (日)

平成20年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)特許・実用新案II

 超ロングになりました。 実際に、設問(1)で当てはめをしっかりとすると、大変なことになりそうです。 今年の問題は、問題I&IIともに、記載量が求められているし(これまでの試験では、通常、一方は軽かったですよね。)、また、事例もやけに細かいですので、答案構成しながら受験生の方々の中には焦られた方も多かったのではないでしょうか。 似たような問題(審判という点で)の出た平成16の問題IIでは差がつかなかったともいわれているとかいわれていないとかなので、平成16と同様、今年も特許・実用新案法は問題Iで差がついていくのかもしれません。

 

  特許庁の論点をまたまた想像してみると、

設問(1) 訂正の要件、及び特許無効審判における請求人の取り得る措置を問う。

設問(2) 一事不再理効及び判例の理解を問う。

 でしょうか。

 

 特許法で、判例が2発も出るのは珍しくないですかね? 弁理士試験の問題としてという点では、(問題I及びIIとして一回で問うている点で)どうかという気がしないでもないですが、非常に良問ではないですかね?? なお、今回も、クロム酸鉛顔料事件での判示事項は採用していません。 すべて、青本と条文だけから記載しています。

 なお、設問(1)では、請求項2がいかなる事項を目的としているのかについては要復習です。

 

 

 設問(1)について

 (イ)について

 (i)訂正請求前の請求項1について

①について

 4面体は、多面体の一態様であり、訂正請求前の請求項1の訂正は、「多面体形状玩具」を「4面体形状玩具」へと限定するものであるので、斯かる訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(134条の2第1項1号)。

②について

 (i)-①のとおり、訂正請求前の請求項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、134条の2第1項1号に規定の要件を満たす。

 題意より、斯かる訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内にあるので、134条の2第5項で準用する126条3項の規定に適合する。

 多面体形状玩具を4面体形状玩具とする訂正は、多面体形状玩具の一態様である4面体形状玩具へ限定するものであり、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないので、134条の2第5項で準用する126条4項の規定に適合する。

 なお、訂正請求前の請求項1は、特許無効審判の請求がされている請求項であるので、126条5項の規定は準用されない(134条の2第5項)。

 したがって、訂正請求前の請求項1の訂正は、訂正が認められるための要件を満たす。

 (ii)訂正請求前の請求項2について

①について

 訂正請求前の請求項1を4面体形状玩具と訂正したことに伴う訂正であり、訂正の前後で、実質的に特許請求の範囲に記載された事項が訂正されているわけではない。

 そして、請求項2において訂正を行わないとすると、訂正した請求項1が4面体形状玩具を発明特定事項とするのに対し、訂正請求後の請求項2が請求項1を引用しているにも関わらず、多面体形状玩具を発明特定事項としている点で、請求項に記載された事項が不明りょうな記載になってしまう。

 これは、訂正した請求項2において、「請求項1に記載の」と記載していることに基づいて不明りょうになっているといえるので、訂正請求前の請求項2を「ゴムからなる部品を備えた多面体形状玩具。」とする訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである(134条の2第1項3号)。

②について

 (ii)-①のとおり、訂正請求前の請求項2の訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるので、134条の2第1項3号に規定の要件を満たす。

 題意より、斯かる訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内にあるので、準特126条3項の規定に適合する。

 訂正した請求項2おいて、特許請求の範囲に記載された事項は、訂正の前後で実質的に相違せず、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないので、準特126条4項の規定に適合する。

 訂正請求前の請求項2は、134条の2第1項2号を目的とする訂正であるので、準特126条5項の規定に適合する必要はない(134条の2第5項)。

 したがって、訂正請求前の請求項2の訂正は、訂正が認められるための要件を満たす。

 (iii)訂正請求前の請求項3について

①について

 訂正請求前の請求項1を4面体形状玩具と訂正したことに伴う訂正であり、訂正の前後で、実質的に特許請求の範囲に記載された事項が訂正されているわけではなく、(ii)-①で上述したところと同様に、斯かる訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものである(134条の2第1項3号)。

 また、「コイイルバネ」を「コイルバネ」と訂正しているが、「コイイルバネ」は「コイルバネ」の明らかな誤りであることから、斯かる訂正は誤記の訂正を目的とするものである(134条の2第1項2号)。

 訂正請求前の請求項3を「特定形状のコイルバネからなる部品を備えた多面体形状玩具。」とする訂正は、誤記の訂正を目的とするものである(134条の2第1項2号)。

②について

 (iii)-①のとおり、訂正請求前の請求項3の訂正は、誤記の訂正を目的とするものであるので、134条の2第1項2号に規定の要件を満たす。

 題意より、斯かる訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内にあるので、準特126条3項の規定に適合する。

 訂正した請求項3おいて、特許請求の範囲に記載された事項は、訂正の前後で実質的に相違せず、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないので、準特126条4項に規定の要件を満たす。

 訂正請求前の請求項3、特許無効審判の請求がされていない請求項であるので、準特126条5項の規定に適合する必要がある(134条の2第5項)。

 題意より、訂正した特許請求の範囲において記載要件違反はないことから(36条)、訂正した請求項3に係る発明が、独立して特許を受けることができるものであるためには、訂正した請求項3に係る発明が、新規性及び進歩性等の特許要件を満たす必要がある(29条等、準特126条5項)。

 (iii)-②-1 訂正した請求項3に係る発明が、刊行物Xに記載された発明により進歩性を有さない場合

 この場合、訂正した請求項3において、準特126条5項の規定に適合しないので、訂正請求前の請求項3の訂正は、訂正が認められるための要件を満たさない。

 (iii)-②-2 訂正した請求項3に係る発明が、刊行物Xに記載された発明により進歩性を否定されない場合

 他の特許要件を満たす場合には(29条、39条等、準特126条5項)、訂正請求前の請求項3の訂正は、訂正が認められるための要件を満たす。

 (iv)訂正請求前の請求項4について

①について

 訂正請求前の請求項4の訂正は、請求項4を削除するものである。

 請求項の削除は、法文上、134条の2第1項各号に該当しないが、特許請求の範囲の減縮に該当するものと解される。

 斯かる訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(134条の2第1項1号)。

②について

 (iv)-①のとおり、訂正請求前の請求項4の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、134条の2第1項1号に規定の要件を満たす。

 題意より、斯かる訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内にあるので、準特126条3項の規定に適合する。

 請求項4を削除する訂正は、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないので、準特126条4項の規定に適合する。

 なお、訂正請求前の請求項4は、特許無効審判の請求がされている請求項であるので、126条5項の規定は準用されない(134条の2第5項)。

 したがって、訂正請求前の請求項4の訂正は、訂正が認められるための要件を満たす。

 (ロ)について

 (i)訂正した請求項1について

①請求の理由の補正

乙と丙は、請求項1に対して、刊行物Xにより新規性を欠如していることを理由として特許無効審判を請求している。

 現在、乙と丙は訂正した請求項1について、刊行物X及びYにより進歩性を欠如していると考えており、特許無効審判で斯かる主張をすることは、請求の理由の要旨変更に該当する。

 原則として請求の理由の要旨を変更する補正は認められないが(131条の2第2項)、以下の要件を満たす場合には、乙と丙は、請求の理由を補正することができる。

①-1 請求の理由の補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明かなものであること(131条の2第2項本文)

 乙と丙は、甲の訂正請求の後に、訂正した請求項1が進歩性欠如していると考えているので、請求の理由の補正をしたとしても審理を不当に遅延させるものではない(131条の2第2項本文)。

②-2 訂正の請求があり、訂正の請求により請求の理由の補正する必要が生じたこと(131条の2第2項1号)。

 甲の訂正の請求により請求項1が、「4面体形状玩具」に限定されたことにより、請求の理由を新規性欠如から進歩性欠如へ補正する必要が生じたものに該当する(131条の2第2項1号)。

 したがって、乙と丙は、訂正した請求項1についての特許が成立しないようにするために、請求の理由を補正して、訂正した請求項1が、刊行物XとYにより進歩性を欠如していることを主張する対応をすることができる。

②意見書の提出

特許無効審判においては、乙と丙が申し立てない理由についても、審理することができるので(153条)、乙と丙は、訂正した請求項1が、刊行物XとYにより進歩性を欠如していることを意見書において主張する対応をすることができる。

(ii)訂正した請求項2について

 乙と丙は、請求項1及び4について特許無効審判を請求しており、請求項2について特許無効審判を請求していない。

 特許無効審判において、訂正した請求項2が刊行物Xにより進歩性欠如していることを主張するためには、請求の趣旨の補正をする必要がある。

 斯かる補正は、請求の趣旨の要旨を変更するものであるので、請求書の補正をすることはできない(131条2第1項)。

 また、上記(イ)で上述したとおり、訂正した請求項2には、訂正の要件として、いわゆる独立特許要件は課されない(準特126条5項)。

 したがって、乙と丙は、訂正した請求項2について特許が成立しないようにすることはできない。

(iii)訂正した請求項3について

 上記(ii)で上述したとおり、特許無効審判において、訂正した請求項3が刊行物Xにより進歩性欠如していると主張することは、請求の趣旨の要旨変更に該当するため、請求書の補正をすることはできない(131条2項)。

 上記(イ)で上述したとおり、訂正した請求項3には、訂正の要件として、いわゆる独立特許要件が課される(準特126条5項)。

 したがって、乙と丙は、意見書において、訂正した請求項3は、刊行物Xにより進歩性欠如していることを主張することにより、特許が成立しないようにすることができる。

 乙と丙は、訂正した請求項3が、刊行物Xにより進歩性を欠如していることを意見書において主張する対応をすることができる。

 設問(2)について

 1通の審決書により各審判の請求は成り立たない旨の審決がされているので、丙との関係で、審決が確定し登録されていたとしても、乙が審決取消訴訟を提起することには何ら問題はない(178条)。

 乙と丙のした特許無効審判は、併合審理されているが(154条1項)、各審判は、別個独立した審判であり、審決は、乙のした特許無効審判に対してなされているからである。

 ここで、丙は、乙のした特許無効審判と同一の内容を記載した請求書により特許無効審判を請求していて、かつ、丙のした特許無効審判については、審判の請求が成り立たない旨の審決が確定し登録されているので、いわゆる一事不再理の問題がある(167条)。

 167条においては、特許無効審判の確定審決の登録があったときは、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができないと規定されている。

 乙は、丙の特許無効審判の確定審決の登録がある前に特許無効審判を請求していて、確定審決の登録を知る前であることから、確定審決が、乙の特許無効審判に対して影響を与えることはない。

以上

 

 

本日のキーワード: 問題IIは判例を問うという流れができつつあるというところでしょうか。。。

 

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2008年7月 3日 (木)

平成20年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)特許・実用新案I

 私も弁理士の端くれですので、知識を落とさないためにも(寧ろ増やすためにもの方が正しいか。。。)、弁理士試験の問題を解いてみることにしました。 特許だけですけど。。。 とはいえ、時間はたっぷりかけています。 一応、ヒントになりそうな他の方のブログ、掲示板及び特許庁の公表論点は見ていません。 逆に、青本、審査基準や判決は見まくりです(正確な要件を忘れていますから確認のためです。)。 自分の力といえるのは、答案構成力くらいですかね。 答案構成時に思いつかなかったのは、青本、審査基準や判決にインスパイヤーされても、採用していません。 あっと、当初、ウォーキングビーム事件で書こうと思っていましたが、青本に切り替えたといえば、切り替えてますね。。。

 

 解いてみて、特許庁の論点を想像してみると、

設問(1) 新規性喪失の例外、変更出願、及び明細書の記載要件を問う。

設問(2) 先使用権、及び判例の理解を問う

 でしょうか。

 

 私自身の感想としては、設問(1)は、知識としては短答レベル、設問(2)は、ウォーキングビーム事件まんま。 とはいえ、論点落としている可能性もあるので、恥さらしな可能性もありますけど。。。

  上記趣旨がありますので、当然に記載量は無視です。 なお、第一弾は、ウォーキングビーム事件は使わずに青本16版のみで記載してみました(間違いではないでしょう! 一応、青本の方が発行は遅いですよね。)。 とはいえ、同一性を失わない範囲内を記載できないので、苦しいです。

 

 

 設問(1)について

 イについて

 実用新案登録出願Yの出願日(平成18年9月1日)前の、甲によるコップAの博覧会への出品及び乙のコップa1の製造・販売により、出願YのAの形状に係る考案は、新規性を欠如している可能性が考えられる(3条1項1号、2号)。

 以下、場合分けして説明する。

(i)出願Yが新規性の喪失の例外の適用を受けられない場合

 甲は、意匠の新規性の喪失の例外の適用を受けて意匠登録出願Xをしている(意4条3項)。変更出願Yにおいては、準特30条4項の規定の書面は、出願Yと同時に提出したものとみなされるため(10条9項)、博覧会への出品が準特30条3項に規定する出品に該当するかが問題となる。

 意匠法においては、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した場合に新規性の喪失の例外の適用を受けることができるので、博覧会への出品により新規性を喪失した場合でも新規性の喪失の例外の適用を受けることができる(意4条2項)。

 一方、実用新案法においては、日本国内の博覧会に出品した場合には、実用新案登録を受ける権利を有する者が政府等が開設する博覧会又は政府等以外の者が開設する博覧会であって特許庁長官が指定するものに出品した場合に限られる(11条1項で準用する特30条3項)。

 甲がコップAを出品した博覧会が上記博覧会に該当しない場合には、新規性の喪失の例外の適用を受けることができない(準特30条3項)。

 この場合、甲によるAの博覧会への出品により、出願Yに係る考案は新規性欠如の無効理由を有するので、乙は、新規性欠如の無効理由を有する旨の主張することができる(3条1項1号、2号、37条1項2号)。

(ii)出願Yへの変更出願が適式な出願でない場合

 甲が、平成18年7月1日にした意匠登録出願Xから平成18年9月1日に実用新案登録出願Yへ出願の変更をしていることから、10条2項に規定する形式的要件は満たしていると考えられる。出願Yが、変更出願における実体的要件を満たしているかが問題となる。

 変更出願における実体的要件は、(1)変更出願Yの明細書、実用新案登録請求の範囲及び図面に記載した事項が、出願Xの変更直前の願書の記載又は願書に添付した図面等に記載した事項の範囲内にあること及び(2)変更出願Yの明細書、実用新案登録請求の範囲及び図面に記載した事項が、原出願Xの出願当初の願書の記載又は願書に添付した図面等に記載した事項の範囲内にあることである。

 変更出願Yにおいて、実体的要件を満たさない場合には、出願Yは、不適法なものであって、出願Xの時にしたものとみなされないので(10条3項)、出願Yの新規性の判断基準時は、出願Yの時となる。

 この場合、甲によるAの博覧会への出品及び乙のa1の製造・販売により、出願Yに係る考案は新規性欠如の無効理由を有するので、乙は、新規性欠如の無効理由を有する旨の主張をすることができる(3条1項1号、2号、37条1項2号)

 ロについて

 出願の経緯を鑑みると、甲は、部分意匠の意匠登録出願Xに基づいて実用新案登録出願Yを行っている。

 出願Xの意匠の説明の欄には、通常、意匠登録を受けようとする部分のHを特定する方法が記載されている。

 また、出願Xの意匠に係る物品の説明の欄には、Aの使用の目的、使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明が記載されている。

 一方、出願Yの考案の詳細な説明には、経済産業省令で定めるところにより、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない(5条4項)。

 出願Yに係る考案は、コップ全体に係るAの形状に関するものであるので、A全体の形状をいわゆる当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載する必要がある(5条4項)。出願Xは、コップの取っ手H部分を部分意匠とする出願であるため、出願Yにおいて、変更出願の実体的要件を満たすように出願を行うと、当業者がA全体の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載できていない可能性がある(5条4項)。

 この場合、乙は、出願Yは、5条4項の規定違反の無効理由を有する旨の主張をすることができる(5条4項、37条1項4号)。

 設問(2)について

 差止請求とは、実用新案権者が、自己の実用新案権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することをいう(27条)。

 実用新案権の侵害とは、正当な権原又は理由なき第三者による業としての登録実用新案の実施及び予備的行為をいう(16条、28条、2条3項)。

 コップa1はAと同一の形状であるので、乙がa1を製造・販売する行為は、甲の登録実用新案の実施に該当する(2条3項、16条)。

 コップa2はa1全体の形状を小型にしたものであるので、Aの形状の全てを考案特定事項として有していると考えられる。乙がa2を製造・販売する行為は、甲の登録実用新案の実施に該当する(2条3項、16条)。

 したがって、乙がa1及びa2を製造・販売する行為は、甲の実用新案権の形式的には侵害となる(27条)。

 乙は、甲の実用新案権の侵害に該当しない旨主張して、甲の差止請求は認められないと主張することはできない。

 以下、乙が主張することができると考えられる先使用による通常実施権の抗弁(26条で準用する特79条)について説明する。

 乙は、コップ用取っ手hを自ら開発していること、取っ手以外の部分は周知の形状であることから、乙はa1を実用新案登録出願Yの内容を知らないで自ら考案したものと認められ、乙の知得ルートは正当である(準特79条)。

 ここで、出願Xの際に、日本国内において、乙はa1の設計図及び金型を作成しているが、a1を製造・販売しているわけではないので、斯かる行為が事業の準備をしていることに該当するかが問題となる。

 また、乙は、その後、a2の製造・販売を開始しているので、斯かる行為が事業の目的の範囲内に該当するかが問題となる。

①事業の準備について

 事業の準備とは、少なくとも準備が客観的に認めら得るものであることを要し、事業に必要な機械を発注してすでにでき上がっている場合は含まれると解される。

 ここで、乙は、a1の金型を作成しているので、事業に必要な機械がすでにでき上がっていると考えられるから、乙は事業の準備をしている者に該当する。

 したがって、乙は、a1を製造・販売することについては、先使用による通常実施権の抗弁を主張することができるので(準特79条)、乙は、a1の製造・販売について甲の差止請求が認められないとの主張をすることができる。

②事業の目的の範囲内について

 事業の目的の範囲内とは、例えば、苛性ソーダの製造のために甲の考案を実施していた場合は、その苛性ソーダ製造業の範囲内であり、苛性ソーダ事業に使用する限りはその製造規模を拡大することは許されると解される。

 乙は、a2の製造・販売をするにあたり、a1に用いている金型とは別の金型を用いていると考えられ、製造規模を拡大しているとはいえないので、a2を製造・販売する行為は事業の目的の範囲内とは認められない。

 したがって、乙は、a2を製造・販売することについては、先使用による通常実施権の抗弁を主張することはできないので(準特79条)、乙は、a2の製造・販売について甲の差止請求が認められないとの主張をすることはできない。

以上

 

 

本日のキーワード: 変更好きですね。。。 実案→意匠、意匠→実案の変更って一番方が予定している態様な気がしますが、どれだけ利用されているんでしょうね。。。

 

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2007年7月 4日 (水)

密やかに パート4

 特許法だけでも勉強がてらに、、、

設問(1)について

(イ)甲がパリ条約の同盟国にした出願A2は、日本国を指定国に含み英語でされた国際特許出願であるので、日本国においては、外国語特許出願として取り扱われる(184条の3、184条の4第1項)。

そこで、甲は、出願A2が取り下げられないために、以下の手続をすべきである。

1.翻訳文の提出(184条の4第1項)

 甲は、国内書面提出期間(出願A1の日から2年6月)以内に国際出願A2の明細書、請求の範囲、図面(図面の中の説明に限る)及び要約の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない(184条の4第1項、第3項)。

 なお、国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に184条の5第1項に規定する書面を提出したときは、翻訳文提出特例期間(当該書面を提出した日から2月)以内に、翻訳文を提出することができる(184条の4第1項)。

2.出願審査の請求(48条の3、184条の17)

 甲は、184条の4第1項の書面及び上記翻訳文(184条の5第1項)を提出し、かつ手数料を納付した後に出願審査の請求をすることができる(184条の17)。

 甲は、出願A2の日から3年以内に特許庁長官に出願審査の請求をしなければならない(48条の3第1項、第4項)。

3.特許管理人の選任の届出

 甲は、在外者であるので、国内処理基準時の属する日後3月(特許法施行規則38条の6の2)内に、特許管理人を選任して特許庁長官に届け出なければならない(184条の11第2項、第3項)。

 なお、国内処理基準時とは、国内書面提出期間が満了する時、又は国内書面提出期間内に甲が出願審査の請求をするときは、その請求の時を意味する(184条の4第4項、第3項)。

(お勉強ポイント)

1.国内移行手続といえば、1)国内書面(184条の5の書面)、2)翻訳文、3)手数料がセットであるが、国内書面と手数料は手続がなされない場合、補正命令後に国際特許出願が却下されるということで、不問か。

 そうなると、要約の翻訳文の手続をしなかったからといって取り下げになるわけでもなく、図面の中の説明も単にないという取り扱いになるだけであるから(図面自体は、国内移行される)、本来的には、国内移行時に出願の取り下げを回避するために取る手続としては、明細書及び請求の範囲の翻訳文の提出となる。

 

 明細書及び請求の範囲の翻訳文を提出しなければ取下げ擬制されるが(184条の4第3項)、要約の翻訳文は提出しない場合、明細書及び請求の範囲の翻訳文が提出されていれば補正命令の対象となり、補正をしなければ出願が却下される(184条の5第3項)。

 また、図面(図面の中の説明)の翻訳文を提出しなかったとしても、出願が取下げ擬制又は却下されるわけではない。

とまで書くか。。。

 

2.184条の5の手続却下について

 国内移行手続に入っていないとき、翻訳文も未提出であり、すると国際特許出願は取り下げ擬制される。この場合に、補正命令の対象になるのかと思うが、そんなことはなくて、青本445頁に記載されている。

 「外国語特許出願の場合は、明細書及び請求の範囲の翻訳文が所定の期間内に提出されないときは、出願が取り下げられたものとみなされるため、翻訳文が提出されていることが本号の補正の対象となるための前提である。」

 この記載は、

1号 前項の規定により提出すべき書面を、国内書面提出期間内に提出しないとき

4号 前条1項の規定により提出すべき要約の翻訳文を、国内書面提出期間(・・・)内に納付しないとき 

5号 195条2項の規定により納付すべき手数料を国内書面提出期間内に納付しないとき

についての部分で記載されている。

 この記載からすると、国際特許出願をした場合には、日本語特許出願では、国内書面提出期間内に手続を忘れても、補正命令が来て補正すれば国内移行されるってことである。

 外国語特許出願では、翻訳文(明細書+請求の範囲)さえ提出していれば、国内書面と手数料は、補正命令後に提出することができるということである。

 

 青本445頁には、

 「国際特許出願について出願人が指定官庁としてのわが国の特許庁に対する手続を全く行っていない場合であっても補正命令の対象とする趣旨である。」

 国内書面という手続を行っていないのに、補正ができるということは、国内書面の提出は手続ではなくて、特許出願とみなされた国際特許出願に付随する書面ということになる。

184条の5第1項

 国際特許出願の出願人は、国内書面提出期間内に、次に掲げる書面を特許庁長官に提出しなければならない。

184条の5第3項

 特許庁長官は、前項の規定により手続の補正をすべきことを命じた者が同項の規定により指定した期間内にその補正をしないときは、当該国際特許出願を却下することができる。

 翻訳文未提出の場合には、不服申し立て手段がないので、代理人としては要注意である。なお、補正命令が来ても国内書面を提出せず、手続の却下通知書が来た後でも、(本規定は強行規定ではないことから)泣き付いたら何とかしてくれるのだろうか。

 代理人としてはやってはいけないことではあるが。

 

 

本日のキーワード: 国内移行手続

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2007年7月 1日 (日)

密やかに パート1

 某ゼミのブログでオープンになっていたので、ちょいと腕試しに解いてみました。 庁の論点公表後ではということで、今から晒しときます。 受験界から離れてしまった昨年の合格者の現時点での実力はこんなもんです。

 なお、試験会場の独特の雰囲気にも揉まれてないですし、パソコンの前に座って時間を気にせず気楽に構成しているので(とはいえ、20分程度ね。)、環境面のファクターが大きく寄与していることを考慮してください。

 また、当事者でないし、受験界の大御所でもないというかほとんど関わってもないので、試験問題に対する講評は現時点ではしません。

 なんで、120点と80点なんですか?

特許法

問題(I)

(1)(イ)

 翻訳文提出(184条の4)

 出願審査の請求(48条の3、184条の17)

 特許管理人の選任(184条の11)

 (国内書面及び手数料は不要でしょう。 書くなら184条の5第3項を意識。)

(ロ)①

 パリ優先権主張しているも、ロについては、優先権の効果なし、現実の出願日で特許要件が判断される。

 発明ロは、刊行物Xにより進歩性がないとの拒絶理由の可能性。

 新規性喪失の例外適用の必要あり。

 刊行物Xの発行の日から6月以内に出願する必要あり。

 184条の14の手続

(2)

 イについて

 パリ優先権の効力により、A1の出願日が基準日。

 公開されたB3は、B2から国内優先権主張しているが、イについては、累積主張に該当し、優先権主張の効果なし。

 よって、29条の2の適用はなし

 ロについて

 A2の出願日が基準日。

 B2を基礎として国内優先権の主張をB3を出願し、B3が公開されているので、B2及びB3に記載されているロについては、B2について公開されたものとみなされるので、29条の2の適用あり。

(3)(イ)

 イについて

 B3の出願日が基準日。

 刊行物Xを引例として29条1項3号

 A2が先願+公開なので、29条の2

 ロについて

 B2の出願日が基準日

 刊行物Xを引例として29条2項

 A1にロは記載されていないので、A1、A2によって拒絶されることはない(実務なら、29条の2はあるかな。)。

(ロ)

 上記拒絶理由を解消することは難しいと考えられる。

 手続補正書の提出

 イは削除補正、ロは減縮補正(実務ならロそのまんまで勝負は厳しいでしょうね。 試験だから書いてもいいでしょうけど。)

 意見書の提出

 数値限定に意義があることを主張する

 (出願B3が拒絶されないための措置だから分割等は書かない。)

 

問題(II)

(1)(イ) 

 参加(148条)

(ロ) 

 甲の同意を得て(73条1項)、特許権の移転登録(27条)、登録が効力発生要件(98条1項1号)。

 専用実施権は登録なくても混同により消滅(98条1項2号)。

 特許権者として、甲と共同で審決取消訴訟を請求(178条1項)。

 単独請求可と解する。

 なお、審決取消訴訟を請求すれば訂正審判を請求することも可(126条)。(特許権Aに係る特許を維持なので、不要かも)

 なお、参加していた場合、審決取消訴訟を提起できる(178条2項)。

 (参加人も審決取消訴訟を請求することができることになっているけど単独でできるのかしらね・・・)

(2)

 補助証拠として可なので、審決取消訴訟を請求又は再度の無効審判を請求。

 無効審判請求する場合は、一時不再理留意(確定前に請求するか、相手方の承諾を得て無効審判の取り下げ(155条2項))(167条)。

② 

 審決取消訴訟で新たな証拠を提出することは不可。 再度の無効審判を請求。

以上

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密やかに パート2

 配点が35点と65点なのですね。

意匠法

問題1 割愛 

問題2

(1)

 原則、ハの意匠登録を受けることはできない(9条1項)。 

 イとロが非類似なので、イ-ハ、ロ-ハとしか関連意匠(10条)とできず、9条で拒絶される。

 イ-ハ関連意匠とし、ロを取下げれば、意匠登録を受けることができる。

 ロ-ハ関連意匠とし、イを取り下げれば、意匠登録を受けることができる。

(2-1)

 意匠権の侵害とは、~~~(23条、38条)

 ニはロに類似しているので、形式的には侵害を構成する(23条)。

 しかし、

 イに係る意匠権はロに係る意匠権の先願。

 イにも類似し、ロにも類似する意匠については、先願権者である、乙が実施することができる(23条、26条2項)。

 丁は乙からイに係る意匠権の通常実施権を許諾されているので、ニはイに係る意匠権の範囲に属するので、丁はニについて実施できる。

(2-2)

 準特99条1項の効力を有する場合には、丁はニについて実施できる(32条1項)。

 対価は必要(32条3項)

以上

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密やかに パート3

 去年に続いて設問番号を記してと記載されていますね。

商標法

設問1

 商標登録の無効の審判(46条)

 4条1項15号、4条1項19号、19号のかっこ書き、除斥期間、15号は不正の目的あれば適用なし。

 商標登録の取消しの審判(50条)

 登録異議申立て(43条の2)及びそれ以外の商標登録の取消しの審判は不可

 (商標権の消滅という文言は、4条1項13号に出てきますね)

設問(2)、(3) 私の力ではモハヤ解けません(ほぼ一行問題ですね。)。

 以上

 

 設問(2)と設問(3)をみると、4条1項19号の無効審判と50条の取消審判のそれぞれの要件について検討させるという問題なので、設問(1)は、4条1項19号で十分な気もしますし、4条1項15号の除斥期間のところで、不正の目的という文言が出てきますので、4条1項15号も書くかなというところです。 ただ、設問(2)及び(3)が一行問題的でもあるので、(出題者の意図を)条文の趣旨から考える問題と捉えて、4条1項15号は切るかもしれません。

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