平成20年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)特許・実用新案II
超ロングになりました。 実際に、設問(1)で当てはめをしっかりとすると、大変なことになりそうです。 今年の問題は、問題I&IIともに、記載量が求められているし(これまでの試験では、通常、一方は軽かったですよね。)、また、事例もやけに細かいですので、答案構成しながら受験生の方々の中には焦られた方も多かったのではないでしょうか。 似たような問題(審判という点で)の出た平成16の問題IIでは差がつかなかったともいわれているとかいわれていないとかなので、平成16と同様、今年も特許・実用新案法は問題Iで差がついていくのかもしれません。
特許庁の論点をまたまた想像してみると、
設問(1) 訂正の要件、及び特許無効審判における請求人の取り得る措置を問う。
設問(2) 一事不再理効及び判例の理解を問う。
でしょうか。
特許法で、判例が2発も出るのは珍しくないですかね? 弁理士試験の問題としてという点では、(問題I及びIIとして一回で問うている点で)どうかという気がしないでもないですが、非常に良問ではないですかね?? なお、今回も、クロム酸鉛顔料事件での判示事項は採用していません。 すべて、青本と条文だけから記載しています。
なお、設問(1)では、請求項2がいかなる事項を目的としているのかについては要復習です。
設問(1)について
(イ)について
(i)訂正請求前の請求項1について
①について
4面体は、多面体の一態様であり、訂正請求前の請求項1の訂正は、「多面体形状玩具」を「4面体形状玩具」へと限定するものであるので、斯かる訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(134条の2第1項1号)。
②について
(i)-①のとおり、訂正請求前の請求項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、134条の2第1項1号に規定の要件を満たす。
題意より、斯かる訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内にあるので、134条の2第5項で準用する126条3項の規定に適合する。
多面体形状玩具を4面体形状玩具とする訂正は、多面体形状玩具の一態様である4面体形状玩具へ限定するものであり、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないので、134条の2第5項で準用する126条4項の規定に適合する。
なお、訂正請求前の請求項1は、特許無効審判の請求がされている請求項であるので、126条5項の規定は準用されない(134条の2第5項)。
したがって、訂正請求前の請求項1の訂正は、訂正が認められるための要件を満たす。
(ii)訂正請求前の請求項2について
①について
訂正請求前の請求項1を4面体形状玩具と訂正したことに伴う訂正であり、訂正の前後で、実質的に特許請求の範囲に記載された事項が訂正されているわけではない。
そして、請求項2において訂正を行わないとすると、訂正した請求項1が4面体形状玩具を発明特定事項とするのに対し、訂正請求後の請求項2が請求項1を引用しているにも関わらず、多面体形状玩具を発明特定事項としている点で、請求項に記載された事項が不明りょうな記載になってしまう。
これは、訂正した請求項2において、「請求項1に記載の」と記載していることに基づいて不明りょうになっているといえるので、訂正請求前の請求項2を「ゴムからなる部品を備えた多面体形状玩具。」とする訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである(134条の2第1項3号)。
②について
(ii)-①のとおり、訂正請求前の請求項2の訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるので、134条の2第1項3号に規定の要件を満たす。
題意より、斯かる訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内にあるので、準特126条3項の規定に適合する。
訂正した請求項2おいて、特許請求の範囲に記載された事項は、訂正の前後で実質的に相違せず、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないので、準特126条4項の規定に適合する。
訂正請求前の請求項2は、134条の2第1項2号を目的とする訂正であるので、準特126条5項の規定に適合する必要はない(134条の2第5項)。
したがって、訂正請求前の請求項2の訂正は、訂正が認められるための要件を満たす。
(iii)訂正請求前の請求項3について
①について
訂正請求前の請求項1を4面体形状玩具と訂正したことに伴う訂正であり、訂正の前後で、実質的に特許請求の範囲に記載された事項が訂正されているわけではなく、(ii)-①で上述したところと同様に、斯かる訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものである(134条の2第1項3号)。
また、「コイイルバネ」を「コイルバネ」と訂正しているが、「コイイルバネ」は「コイルバネ」の明らかな誤りであることから、斯かる訂正は誤記の訂正を目的とするものである(134条の2第1項2号)。
訂正請求前の請求項3を「特定形状のコイルバネからなる部品を備えた多面体形状玩具。」とする訂正は、誤記の訂正を目的とするものである(134条の2第1項2号)。
②について
(iii)-①のとおり、訂正請求前の請求項3の訂正は、誤記の訂正を目的とするものであるので、134条の2第1項2号に規定の要件を満たす。
題意より、斯かる訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内にあるので、準特126条3項の規定に適合する。
訂正した請求項3おいて、特許請求の範囲に記載された事項は、訂正の前後で実質的に相違せず、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないので、準特126条4項に規定の要件を満たす。
訂正請求前の請求項3、特許無効審判の請求がされていない請求項であるので、準特126条5項の規定に適合する必要がある(134条の2第5項)。
題意より、訂正した特許請求の範囲において記載要件違反はないことから(36条)、訂正した請求項3に係る発明が、独立して特許を受けることができるものであるためには、訂正した請求項3に係る発明が、新規性及び進歩性等の特許要件を満たす必要がある(29条等、準特126条5項)。
(iii)-②-1 訂正した請求項3に係る発明が、刊行物Xに記載された発明により進歩性を有さない場合
この場合、訂正した請求項3において、準特126条5項の規定に適合しないので、訂正請求前の請求項3の訂正は、訂正が認められるための要件を満たさない。
(iii)-②-2 訂正した請求項3に係る発明が、刊行物Xに記載された発明により進歩性を否定されない場合
他の特許要件を満たす場合には(29条、39条等、準特126条5項)、訂正請求前の請求項3の訂正は、訂正が認められるための要件を満たす。
(iv)訂正請求前の請求項4について
①について
訂正請求前の請求項4の訂正は、請求項4を削除するものである。
請求項の削除は、法文上、134条の2第1項各号に該当しないが、特許請求の範囲の減縮に該当するものと解される。
斯かる訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(134条の2第1項1号)。
②について
(iv)-①のとおり、訂正請求前の請求項4の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、134条の2第1項1号に規定の要件を満たす。
題意より、斯かる訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内にあるので、準特126条3項の規定に適合する。
請求項4を削除する訂正は、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないので、準特126条4項の規定に適合する。
なお、訂正請求前の請求項4は、特許無効審判の請求がされている請求項であるので、126条5項の規定は準用されない(134条の2第5項)。
したがって、訂正請求前の請求項4の訂正は、訂正が認められるための要件を満たす。
(ロ)について
(i)訂正した請求項1について
①請求の理由の補正
乙と丙は、請求項1に対して、刊行物Xにより新規性を欠如していることを理由として特許無効審判を請求している。
現在、乙と丙は訂正した請求項1について、刊行物X及びYにより進歩性を欠如していると考えており、特許無効審判で斯かる主張をすることは、請求の理由の要旨変更に該当する。
原則として請求の理由の要旨を変更する補正は認められないが(131条の2第2項)、以下の要件を満たす場合には、乙と丙は、請求の理由を補正することができる。
①-1 請求の理由の補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明かなものであること(131条の2第2項本文)
乙と丙は、甲の訂正請求の後に、訂正した請求項1が進歩性欠如していると考えているので、請求の理由の補正をしたとしても審理を不当に遅延させるものではない(131条の2第2項本文)。
②-2 訂正の請求があり、訂正の請求により請求の理由の補正する必要が生じたこと(131条の2第2項1号)。
甲の訂正の請求により請求項1が、「4面体形状玩具」に限定されたことにより、請求の理由を新規性欠如から進歩性欠如へ補正する必要が生じたものに該当する(131条の2第2項1号)。
したがって、乙と丙は、訂正した請求項1についての特許が成立しないようにするために、請求の理由を補正して、訂正した請求項1が、刊行物XとYにより進歩性を欠如していることを主張する対応をすることができる。
②意見書の提出
特許無効審判においては、乙と丙が申し立てない理由についても、審理することができるので(153条)、乙と丙は、訂正した請求項1が、刊行物XとYにより進歩性を欠如していることを意見書において主張する対応をすることができる。
(ii)訂正した請求項2について
乙と丙は、請求項1及び4について特許無効審判を請求しており、請求項2について特許無効審判を請求していない。
特許無効審判において、訂正した請求項2が刊行物Xにより進歩性欠如していることを主張するためには、請求の趣旨の補正をする必要がある。
斯かる補正は、請求の趣旨の要旨を変更するものであるので、請求書の補正をすることはできない(131条2第1項)。
また、上記(イ)で上述したとおり、訂正した請求項2には、訂正の要件として、いわゆる独立特許要件は課されない(準特126条5項)。
したがって、乙と丙は、訂正した請求項2について特許が成立しないようにすることはできない。
(iii)訂正した請求項3について
上記(ii)で上述したとおり、特許無効審判において、訂正した請求項3が刊行物Xにより進歩性欠如していると主張することは、請求の趣旨の要旨変更に該当するため、請求書の補正をすることはできない(131条2項)。
上記(イ)で上述したとおり、訂正した請求項3には、訂正の要件として、いわゆる独立特許要件が課される(準特126条5項)。
したがって、乙と丙は、意見書において、訂正した請求項3は、刊行物Xにより進歩性欠如していることを主張することにより、特許が成立しないようにすることができる。
乙と丙は、訂正した請求項3が、刊行物Xにより進歩性を欠如していることを意見書において主張する対応をすることができる。
設問(2)について
1通の審決書により各審判の請求は成り立たない旨の審決がされているので、丙との関係で、審決が確定し登録されていたとしても、乙が審決取消訴訟を提起することには何ら問題はない(178条)。
乙と丙のした特許無効審判は、併合審理されているが(154条1項)、各審判は、別個独立した審判であり、審決は、乙のした特許無効審判に対してなされているからである。
ここで、丙は、乙のした特許無効審判と同一の内容を記載した請求書により特許無効審判を請求していて、かつ、丙のした特許無効審判については、審判の請求が成り立たない旨の審決が確定し登録されているので、いわゆる一事不再理の問題がある(167条)。
167条においては、特許無効審判の確定審決の登録があったときは、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができないと規定されている。
乙は、丙の特許無効審判の確定審決の登録がある前に特許無効審判を請求していて、確定審決の登録を知る前であることから、確定審決が、乙の特許無効審判に対して影響を与えることはない。
以上
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