iPS細胞 世紀の発見が医療を変える 八代嘉美 平凡社新書
中内先生のところの博士課程の学生さんなんですね。 新書なので、字が多いですが、読みやすいです。 実際に、iPS細胞の研究に携わっている方が書く書籍ですから。。。 とはいえ、研究の最先端の息吹は伝わってこないところが残念です。 また、新書向けなのか、矛盾する記載がちょっとあるところが・・・ 言い回しを分かりやすくするためかと思いますが、真面目に読むと、?!?!と思うところがあります。
26頁 「1981年、イギリスのエヴァンスとカウフマンはマウスを使った実験を行った。 胚盤胞を取り出し、さらにその中の内部細胞塊を取り出してバラバラにし、培養したのである。 ・・・ 次に彼らがこのコロニーの細胞を別のマウスの皮膚を注射すると、注射された細胞はマウスの中で増殖を続け、コブをつくった。」
27-29頁 「また彼らはES細胞の全能性を示すために、ユニークな実験を行った。 ・・・ また、キメラマウス同士を交配すると白いマウス、灰色マウス、そして黒いマウスが生まれてくる。 これはES細胞が精子や卵子にもなれることを示している。」
ヌードマウスに注入して奇形腫ができるか、キメラマウスが作れるか、そして、キメラマウスは次世代を生み出す能力があるかって、山中氏がiPS細胞を作り出したときにも確認実験として行っている実験ですね。
エバンス氏が、上記現在のES細胞研究のプロトコルとでもいうものを確立させたのでしょうかね??? さすがにそんなことはないでしょうか??? なお、エバンス氏は2007年のノーベル医学生理学賞を受賞していますが、ES細胞としてもらっているわけではないのですね。
for their discoveries of principles for introducing specific gene modifications in mice by the use of embryonic stem cells
ES細胞の使用によるマウスの特定遺伝子に修飾を導入するための原理の発見に対して与えられていますので、ようするにノックアウトマウスの発見にノーベル賞が与えられているのですね。 ですので、山中氏もiPS細胞が臨床応用等されるようになったときに受賞するとすれば受賞するのでしょうな。
31-32頁 「こうした働きを<誘導>と呼び、誘導を引き起こす存在(この場合は移植された背唇)を<オーガナイザー>と呼ぶ。 ・・・ しかし1989年に東京大学の浅島誠教授が画期的な実験を行い、オーガナイザーの実体をとらえることに成功したのだ。 ・・・、加えるアクチビンAの濃度に応じて、心臓や肝臓、筋肉に血液などさまざまな組織をつくることができた。 ・・・ そして<分化>というプロセスは、オーガナイザーが引き金となって引き起こされる誘導の連続である、・・・」
40頁 「・・・、1998年のアメリカのトムソンの論文である。 ・・・ さすがに実験的にキメラ人間をつくって確認することはできないが、マウスと同じような全能性をもつES細胞が確立されたのである。」
ここが、ES細胞が倫理ときっても離せない所以です。
iPS細胞の作製自体は、山中氏がマウスで確立させているわけですから、iPS細胞がもっともっと裾野が広がって応用研究が進んでいって臨床試験等もされるようになれば、単独ノーベル賞の受賞もありえるかもですね。 トムソン氏も、ヒトiPS細胞を山中氏と同時に発表しているわけですが、原理自体は山中氏のマウスiPS細胞の樹立の論文に基づいているでしょうからね。 とはいえ、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞の樹立を行っているのですから、その業績を考えると同時受賞ですか。。。
47頁 「つまり、受精卵がもつ能力は文字どおり万能だけれど、ES細胞はそうではない。 ・・・ 受精卵が胚盤胞へと成長していくにつれて胎盤をつくる能力を失っていくように、胚盤胞以降の胚にある細胞は日を追うごとに多能性を失っていく。」
どこかで、マウスでは、受精卵が8分割になったところから1つ1つの細胞に全能性がないことが示されていると読んだことがあります。 一卵性双生児の分割はいつおこるんですかね???
69頁 「実はニューロン自体は受精後25週ほどで増殖するのをやめてしまい、20歳をすぎるとニューロンは1日に10万個ずつ死んでいくことが知られている。 ・・・ つまり、ニューロンの場合、細胞の数が重要なのではない。 いかにニューロン同士が複雑につながりあい、情報をやり取りできるかが重要なのである。 そしてこの回路は、20歳をすぎてもつくりつづけることができるので、いくつになっても新しいことを覚えることは不可能ではない。」
人間、20歳をすぎたらアホになるばっかりである、の根拠としてよく昔聞きました。 1日10万個。。。 ただ、年齢を重ねるにつれて、暗記力が落ちるようになり、日常で出てこない用語を忘れるようになっていますわね。。。 仕事に関連のある専門性のあるところは忘れませんが・・・ 新たなことへの能力の欠落を痛感することしきりです・・・
127頁 「2004年2月12日、科学雑誌『サイエンス』のインターネット上の速報版に1本の論文が掲載された。 それが韓国・ソウル大学の黄禹錫(ファン ウ ソツク)による世界に先駆けてヒトクローン胚からES細胞樹立に成功した、という発表だったのだ。」
いわずと知れた、韓国の黄教授による偽装ですね。 一時期、日本でも偽装論文が話題になりましたが、最近は下火です。 まぁ、他にもまだまだありそうですが・・・ 特許の世界ではどのように判断されるんでしょうかね??? オーストラリアでは特許が成立したとかしないとか。。。 なお、日本における特許出願は、特表2007-516720号(特願2006-546844号)ですね。 平成18年9月14日に出願審査請求がされています。 その後取り下げられてもいないようですし。。。
2006年6月27日付でのchosun Onlineの記事によれば、韓国・米国・日本・中国・オーストラリア・カナダ・インド・ニュージーランド・ブラジル・ヨーロッパ連合(EU)の10カ国(地域)での権利取得を目指すようです。 この記事の翌日に国内書面(184の5の書面)が提出されていますね。 ちなみに、日本の代理人は、青和特許法律事務所です。
166-167頁 「山中教授らは、基本技術はヒト、マウスなどの種を限定しない基本特許であるとしているけれど、民間企業によって臨床応用という面での特許を押さえられてしまえば、基礎研究にとって大きな足かせとなりかねない。」
山中教授の出願が特許査定されたことはニュースになりました。
平成20年9月11日付けCiRAニュースリリースの「人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem Cells; iPS細胞)の作製方法に関する特許が成立」によれば、請求項の記載は、
「体細胞から誘導多能性幹細胞を製造する方法であって、下記の4種の遺伝子: Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2を体細胞に導入する工程を含む方法。」
と、ヒト、マウスによらないんですが、国際出願日を考えるとヒトについては、作成できることが確立していたんでしょうか? 基礎出願の日付を考えると、、、 無効審判に勝てるのでしょうか・・・ なんだか、心配になってきます。 やぼなことはいいっこなしだと思いますし、マウスは確実でしょうけど。。。(中身を熟読していないので、なんともいえませんが。。。) 国際出願にヒトのデータが含まれていなければ、体細胞についてマウス、ヒト等の種類が特定されていないし、また、用いられる細胞も体細胞としか限定されていないし(何でもよいわけではないでしょうし、、、)、実施可能要件的にどうなんでしょう!?(通常の出願なら間違いなくサポート要件及び実施可能要件が通知されるのでは???) また、国際出願においてヒトのデータが後から加わっている場合には、優先権がヒトについては適用されないので、マウスを元に、マウス以外でのiPS細胞の樹立の論文でもって、進歩性が否定なんてこともあり得るのではと思ってしまいます。 そういう意味でも、大学の先生にも、論文発表・学会発表は、基礎出願から1年以降としてもらいたいものですね。
なお、「国際出願(PCT/JP2006/324881、国際公開第2007/69666号パンフレット、国際出願日2006年12 月6 日)から日本国に移行手続きをした特許出願(特願2007-550210 号、親出願)をもとに本年5 月20 日に分割した特許出願(特願2008-131577号、分割出願)を行いました。」とのことです。 そのうち、IPDLで出願経過等が確認できるようになるでしょうから、分割出願をせざるを得なかった理由等を確認してみたいと思います。
173-174頁 「実際、これまでの研究から、細胞は平面で培養するよりも<たて・よこ・たかさ>の三次元で、立体的に培養するほうが体の中の環境に近く高い機能を発揮すると考えられている。 ・・・ コラーゲンなどの材料で臓器の形をつくり、その形を<足場>として細胞を培養するという研究が進められている。 こうした方法とまったく異なるユニークな研究として、横浜市立大学の谷口英樹教授らは、NASA(アメリカ航空宇宙局)が開発した擬似的に無重力空間をつくりだす装置を用いて、マウスの胎児から取り出した肝幹細胞を培養するという試みを行った。 ・・・、肝臓にある胆管や血管をもった組織となった。」
三次元培養についての記述です。 単純にES細胞だけから(iPS細胞だけから)、移植に用いることのできる臓器を作ることはできないでしょうから、材料とバイオの複合化した特許出願とかが今後続きそうです。
202頁 「本書は、再生医療や幹細胞という言葉を中心に据え、筆を進めてきた。」
自認されているように、題名と内容は乖離しています。 iPS細胞の話は、1章だけで、そこまでは、歴史とでもいおう話しになります。 とはいえ、山中氏も供述していますが、ES細胞なくして、iPS細胞はないわけですから、、、 題名は、ES細胞からiPS細胞といった方がよいかもです。 少々、新書として題名にインパクトを求めすぎといえるでしょうか・・・
本日のキーワード: 三大発明は、羅針盤、火薬、活版印刷ですが、バイオの三大発明は、遺伝子組換、PCR、ノックアウトマウスでしょうか!
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