2011年5月15日 (日)

平成21年(行ヒ)第326号

 
久々に特許で最高裁判決が出ましたので、ブログも久しぶりに更新です。

特許とは言っても、存続期間延長登録の可否に関する判決ですので、実務的に影響力は大きくても、弁理士万人が関連するものではありませんね。

私は、これまで、該制度について、非常に注力して勉強してきていましたので、色々と散文的に考察をしていきたいと思います。


まずは、最高裁判決文の中からのみで考えてみます。


本件では、平成20年(行ケ)第10460号のみが判示されているわけですが、
平成20年(行ケ)第10458号は、平成21年(行ヒ)第324号で判示されているようですので、
第10459号は、間をとって、平成21年(行ヒ)325号なんでしょう。
判決文のDBだと、タイトルの事件のみが公開されているような感じです。


上告代理人は、「須藤典明ほか」となっています。
日本弁護士連合会の検索ページで探してみても、ヒットしません。
一方、e-hokiの裁判官検索を行うと、お一方ヒットし、法務省訟務総括審議官というのをやられている方が出てきます。
ググってみても、同一人と思われる方がヒットします(書籍もそれなりに出されていて、法曹では著名人のようですね。)。

今は行政官かもしれませんが、本来司法に属する裁判官である方が最高裁に対し、行政に属する特許庁の代理人として訴えるという図式であろうと想像しておきます。


前置きが長くなりましたので、本題に戻しまして、
以下、おいおい事例との関係は述べて行きますが、
まずは、判決文だけから思いつくままに。


『2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。』
として、「2」で(1)~(5)として事実関係が述べられています。

2の中で目を引く部分は、(3)中の
『本件先行医薬品は、本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない。』
です。


「3」が判断部分になりますので、まずは、全文引用してみましょう。

『3 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。
 本件先行医薬品は,本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないのであるから,本件において,本件先行処分がされていることを根拠として,その特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない。』

そして、下線部分ですが、

『特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。』

ここだけ読むとWスタンダードの容認ととれなくもありませんね。
最高裁の考えはどうなんでしょうか?
というのも、現行、特許庁は、存続期間の延長登録の出願に対して、
物と用途、医薬品でいうなれば、有効成分と効能・効果を先行品と後行品(本件処分に相当するもの)とで対比して、いずれかが異なる場合に(通常は、効能・効果の差異に着目して)、延長登録を認めているわけです。

特許庁の審査基準には、

『(3) 一の特許権に対応する処分が複数あるとき
  一の特許権に対応する処分が複数ある場合、処分を受けた物が異なる処分(処分 において物の用途が特定されている場合にあっては、物又はその特 定される用途のいずれかが異なる処分)であれば、それぞれの処分を受けることはその特許発明の実施に必要であったと認 められるため、異なる複数の処分に基づく同一の特許権の存続期間の延長登録が処分ごとに認められる。
 例えば、医薬品に関する一の特許権に対して、有効成分又は効能・効果のいずれかが異なる複数の承認が与えられている場合には、それらの承認に基づく複数の延長登録が認められる。

(注) 政令で定める処分を受けた物と実質的に同一の物の取扱いについては、(4)を参照。

 逆に、有効成分及びその効能・効果が同一の他の承認(例えば剤型、製法等のみが異なる承認)を受けることは、当該特許発明の実施に必要であったとは認められないこととなるため、当該他の承認に基づく延長登録の出願は拒絶される。』

『(5)医薬品の承認等を受けた物の用途
 第一の処分を受けた物の用途と第二の処分を受けた同一の物の用途が一部重複している場合には、その重複部分を除いた用途についての特許発明の実施が、第二の処分を受 けることによって初めて可能となる 。したがって、第二の処分を受けることは、特許発明の実施に必要であったと認められることとなる。
 例えば、下位概念の用途(例えば、慢性アレルギー性鼻炎治療剤)を有する有効成分に対して承認が与えられた後 、上位概念の用途(例えば、アレルギー性鼻炎治療剤)を有する同一の有効成分に対して承認が与えられた場合には、上記の考え方に従 って、後者の承認を受けることも特許発明の実施に必要であったと認められることとなる。』

です。

本件では、(3)の考え方を複数の特許権がある場合というか、後行品をカバーする特許権がある場合にまで、拡大して適用したことが問われているわけですが、
(5)の場合や、(3)の効能・効果が異なる複数の承認が与えられている場合においては、
『先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないとき』
の要件が考慮されずに延長登録が認めらています。
すなわち、現在の存続期間の延長登録の実務では、
物質特許があって、先行処分が効能・効果X、後行処分が効能・効果Yの場合には、XとYが異なっていれば、あるいは、YがXを包含する場合でも、新効能・効果と評価される部分があれば、後行処分に基づいて延長登録が認められているわけです。
この場合、先行処分によって、先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲に属する場合になりますので、今回の新たな要件である
『先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないとき』
は、現行の審査基準の下での審査に合致することになるんでしょうか。
また、どのように条文を解釈していくのでしょうか。


私は、現状では、以下のように進んでいくのだろうと思っていますが、今後、産業構造審議会のWGも再開され動くでしょうからウォッチングしておきましょう。。

まずは、現行通り、有効成分と効能・効果で判断する。
一方が異なっていれば、延長登録を認める。
双方同じであっても、後行処分に係る特許権の存在を確認する。
先行処分に係る医薬品が、該特許権の技術的範囲に属していなければ、後行処分に基づく延長登録を認める。


有効成分と効能・効果が異なる場合には、技術的範囲に属するか否かというのは問われず、
すなわち、特許庁がこれまで行ってきており、今般の飯村コート判決が出るまでの裁判所の判断を踏襲するものといえるでしょう。
この特許庁の考え方の本質は、68条の2に基づくものであるとともに、特許庁が主張している、(私の解釈では)医薬の本質は、有効成分と効能・効果であるということになると思います。
すると、最高裁は、ここの考え方については、飯村コートの考え方を否定していると捉えることもでき、その後、出されている塩月コートの判決等にも影響はないのでしょうか?
おいおい、眺め直してみようと思います。

私の今後の実務に対する想像では、上記のように、(3)の例外的事例として、今般のようなケースが審査基準に定められ、特段大きな変更はないと想定していますが(承認される一事例が増えるに過ぎない)、より考察を深めていきたいと考えておる次第であります(浅はかな考えかもしれません)。

なお、最高裁が、現行の特許庁の運用を容認しているのではないかと考えたのは、
『後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,』
という前提を置いていることから、有効成分と、効能・効果に基づく現行審査基準を前提として考えて、両者が異質の場合は現行通り、同質の場合には、少し考慮が必要としているのではないかと考えたからです。


ただし、なぜならば以下の理由づけの部分が、今回の事例のような場合にのみ適用される考え方というのは若干、違和感を覚えます。存続期間延長登録制度全般にかかわる事項についての一般論に該当するともいえ、とても一般的なことを述べていないでしょうか?

『なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。』

この考え方でいけば、現行の、物質特許に対しての、効能・効果までを考慮して延長登録を認める特許庁の運用はありなのでしょうか?
68条の2の解釈としても、特許発明として用途が特定されている場合には、用途までみると読まないと上記の最高裁判決の、判示事項に沿うのか疑問が残ります。
この辺りは、もう少し考えてみたいと思います。


なお、最高裁は、
『そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。』
と続けますが、この部分では何を言いたいのでしょうか?
68条の2が有効成分、効能・効果において異なるときは、考慮するにしても、そうでない場合には、68条の2の解釈は関係なく、禁止されていた範囲が解除されたか否かで、製剤特許に対応する新規剤形医薬品(延長登録における新剤形医薬品の新規登録形態といえそうです)として、すなわち、新規有効成分医薬品のような場合と同様に延長登録を認めればよいというスタンスなのでしょうか?

今後、後行処分とは別の用途で同一製剤について処分がさらにあったとしても、延長登録は認めれないということを意味しているのでしょうか。
物質特許については、有効成分及び効能・効果の異同についても判断してよい。
製剤特許については、有効成分及び効能・効果の異同については判断してはいけない。
ということなのでしょうか?
製剤特許においては、延長登録のためには、一つ一つの有効成分や用途ごとに、他社排除の観点からすると、有効成分を特定せずに取得することが望まれることになりますが、
そうすると、改善多項性との関係で、まとめた大きい特許を取ると、延長登録の点では不利、個別具体的に細分化して権利を取得しておいた方が延長登録の点では有利となりますが、ここはおかしなことになりそうな気がします。

最高裁は、発明の本質は何かということを求めているのでしょうか。
『本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないのであるから』
との『いずれの』という判示事項にある意味戸惑いを覚えています。

今後、製剤特許の取り扱いがどうなっていくのかは、注視しておこうと思います。
 

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2009年6月 8日 (月)

平成20年(行ケ)第10458号

平成20年(行ケ)第10458号 審決取消請求事件 平成21年5月29日判決言渡

 審決取消(下線は付記)

裁判所の判断

 「当裁判所は,本件出願に対し,本件先行処分があったことを理由として,本件発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとした審決の判断には,以下の2点(「特許法67条の3第1項1号該当性の誤り」及び「先行処分に係る延長登録の効力の及ぶ範囲についての誤り」)において誤りがあり,その誤りは,いずれも審決の結論に影響するものであるから,審決を取り消すべきものと判断する。」(45頁)

 ということで、これまでの存続期間の延長登録の出願の審査実務に影響が出そうです。 また、延長登録の効力範囲にまで影響が・・・ 審査は通りやすくなるけれども、権利範囲は狭くなる方向に行く可能性がありますので、今後の判例を要チェックです。 ただし、本判決の射程がどこまでかも考慮する必要があります。

 争点となった条文

67条の3第1項第1号 その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。

68条の2 特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。

 「上記規定によれば、特許権の存続期間の延長登録の出願に関し,同条1号所定の拒絶査定をするための処分要件(要件事実)は,「その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分(判決注 本件においては,薬事法14条1項所定の医薬品の承認)を受けることが必要であつたとは認められないとき」であり,そのいわゆる主張,立証責任は,あげて,拒絶査定をする被告において負担する。」(46頁)

 ということで、拒絶理由は(後に繋がっていく中で、「あくまでも」と読めると思いますが)、あくまでも67条の3第1項第1号から導くことが必要としていると判示しています。

 先に感想をば、、、 改正時の事情も勉強できていませんし、判決の中で多々挙げられている見解にも目を通したわけではないので、間違った解釈かもしれませんが、存続期間の延長登録制度が導入された昭和62年改正法から、時代趨勢が変更しているのに、特許庁が条文の文言を変えてこなかったというところにも問題がありそうです。 そもそも、存続期間の延長登録の審査については、平成18年ごろまでに判決が出揃って、実務の方向性がようやく定まったと考えられていたと思います。 その後も、武田薬品だけは、頑張っていたということになると思いますが。。。 特許権の存続期間がトピックになってきているのも、2010年問題、ジェネリックの台頭、LCMの観点からの結晶、製剤特許の活用といった点も大きいでしょう。 そもそも、三極で唯一、何回でも、また、どの特許に対しても延長できるという制度設計をしているところも争いが増える点でしょう。 また、ブロックバスターは売れると分かっているのですから、何としてでも独占を延長したいというのが企業の意向でしょうし。 昭和62年時と現状は、製薬業界の置かれている状況、特許戦略の状況も違う気がしてますので、抜本的な改正(解釈も含めて)が必要かもです。 (参考 Wikipedia ブロックバスター) 

 「特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった特許権者に対して,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間,特許権の存続期間を延長するという方法を講じることによって,特許発明を実施することができなかった不利益の解消を図った制度であるということができる。」(49頁)

 特許法67条の3第1項第1号の「政令で定める処分」の用語を解釈する上で、法の趣旨をまずは、明確にしています。

 「以上の点を前提として整理する。特許法67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が,延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことを論証する必要があるということになる(なお,特許法67条の2第1項4号及び同条2項の規定に照らし,「政令で定める処分」の存在及びその内容については,出願人が主張,立証すべきものと解される。)。」(49頁)

 ここまでで、「政令で定める処分」の解釈については何も裁判所はいっていません。

 67条の3第1項第1号により審査官(審判官)が拒絶するためには、条文の解釈として、

 ①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと

 出願人が立証した、出願人が受けた「政令で定める処分」については、証拠として、通常、医薬品医療機器総合機構による審査結果が添付されているわけですから、、、 そうすると、条文の文言に当て嵌めてみると、一般には「禁止が解除されたとはいえない」とはならないこととなります。 言い直せば、機構により承認されていれば、政令で定める処分によって何らかの禁止は解除されているので、拒絶理由は①に基づいては発生しないことになります。 ところが、これまでの特許庁の運用では、機構による承認がなされたとしても、新たに禁止が解除されていない、既に禁止は解除されていたとして、①に該当すると判断していたわけです。 ここでの、「政令で定める処分」を、文言通り解釈するのではなく、68条の2から導いて、「有効成分」と「効能・効果」の点からの処分でなければならないとしたわけです。 すなわち、「政令で定める処分」を、「有効成分」と「効能・効果」に関する処分として、同様の「有効成分」及び「効能・効果」についての先の処分があれば、禁止が新たに解除されていないとしていたということです。

 ②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないこと

 ②が審査の課程で問題になることはあまりないでしょう。 「政令で定める処分」を受けた医薬品が、特許発明の技術的範囲に属するか確認するということだと思いますので、通常は、大丈夫ですね。 医薬発明の場合、用途発明の出願も多数なされている訳ですが、製造販売している医薬品の直接関連する用途は、通常、物質特許の際に明細書中で記載されていることが多いですからね(用途発明に基づいた延長登録の出願はあまりないでしょう。)。 また、存続期間の延長登録の出願の場合、用途特許は特段関連せず、物質特許、結晶特許、又は製剤特許が関与してくるでしょうし。

 また、②について、これまでの審査では、「有効成分」と「効能・効果」について判断していたわけですので、問題はなかったでしょう。

 「しかし,本件先行処分の対象となった先行医薬品は,本件発明の技術的範囲に含まれないこと,本件先行処分を受けた者が,本件特許権の特許権者である原告でもなく,専用実施権者又は登録された通常実施権者でもないことは,当事者間に争いがなく,本件先行処分によって禁止が解除された先行医薬品の製造行為等は本件発明の実施行為に該当するものではない。本件においては,本件先行処分が存在するものの,本件先行処分を受けることによって禁止が解除された行為が,本件発明の技術的範囲に属し,本件発明の実施行為に該当するという関係が存在するわけではない。」(50頁)

 本件は、これまでの延長登録の出願とは若干事例を異にするわけですので、射程がどこまでかは、今後の課題になるわけです。

 これまでの延長登録の出願は、簡単に言うと、

 物質特許に対して、(効能・効果に変更なく、効能・効果での延長登録は既にされている中で)新用量又は新剤型での承認を得た場合に、延長登録が認められるかという点が争点だったわけですが、

 今回の案件では、

 製剤特許に対して、新剤型医薬品として承認を受けた場合に、延長登録が認められるかという点が争点になったわけですので、若干、事例が異なるといえば異なる訳ですが・・・

 「したがって,本件先行処分の存在は,本件発明に係る特許権者である原告にとって,本件発明の技術的範囲に含まれる医薬品について薬事法所定の承認を受けない限り,本件発明を実施することができなかった法的状態の解消に対し,何らかの影響を及ぼすものとはいえない。本件先行処分の存在は,本件発明の実施に当たり,「政令で定める処分」(本件では薬事法所定の承認)を受けることが必要であったことを否定する理由とならない。」(50-51頁)

 物質特許に対して、新剤型・新用量医薬品として承認を受けた場合には、どうなるんでしょうか? 前段部分を読むと、物質特許に対して、新製剤の承認を得なくても禁止は解除されているわけで、先行処分の存在により、新剤型については、延長登録は、認められないとも読めます。

 物質特許に対しては、新剤型・新用量医薬品の承認を受けたとしても、禁止が解除されたわけではないと判断されるとなると、製剤特許に対してだけ、新剤型医薬品の承認を受ければ禁止が解除されたといえ、新用量では、製剤特許の禁止は解除されるものではないとなりそうです。 そうなってくると、先に「先発メーカー寄り」とコメントしましたが、効力範囲が狭まる可能性を鑑みると、寧ろ、武田薬品は自分の首を締めると共に、製薬協全体の首も締めたかもしれません。 まぁ、審査基準の改定によって、用法用量についても特許が認められるようになれば、新用量医薬品での承認を受けた場合に用法用量特許について延長されるとは思いますが。。。

 現行で、先の処分がある中で、後の処分として、新たに、新効能医薬品、新剤型医薬品、新用量医薬品として承認を受けた場合を考えてみます

          新効能医薬品 新剤型医薬品 新用量医薬品

物質特許       ○         ×        ×

製造方法特許    ○(?)      ×        ×

用途特許       ○         ×        ×

結晶特許       ○         ×        ×

製剤特許       ○         ×        ×

用法用量特許    ○         ×        ×

 (認められていればとして)

 ではないかと思いますが、今回の判決を受けた最悪のケースとして、まとめてみると、

           新効能医薬品 新剤型医薬品 新用量医薬品

物質特許       ×         ×        ×

製造方法特許    ×         ×        ×

用途特許       ○         ×        ×

結晶特許       ×         ×        ×

製剤特許       ×         ○        ×

用法用量特許    ×         ×        ○

 となってしまわないでしょうか?

 「本件発明を実施することができなかった法的状態の解消に対し」をどう解釈するかだと思うのですが、疑問が残ってしまいました。。。 

 物質特許のうち、新効能に係る物資特許の部分は、請求項の記載に対する黙示の下位概念とでもいうような位置づけで、やはり本件発明を実施することができなかった部分であると判断されるという理解でよいんですかね??? そのように考えると、機構による全ての承認に対して、延長登録が認められることになると思いますが。。。 出願すればよいという状態が生まれそうです。。。

 そして、今後は、②の要件に合致しているのかという点の判断が求められることになりそうですが、そうすると、出願する方も②の要件の充足性を述べなければいけないわけで、結構大変なことになりそうです。 というのも、これまでは、製剤のミソですので、製剤における添加剤については黒塗りしていたんではないでしょうか? しかし、②の要件が有効成分と効能・効果だけではなく、構成要件を満たしているかという点に移ってくるとすると、製剤特許において少なくとも請求項1に規定している構成要件を充足していることを証拠として提示する義務は出願人に課せられたわけで、黒塗りできなくなるのでは???

 

 先発メーカーにとってはもろ手を挙げて喜べないというか、寧ろ好ましくない状況が生まれていないでしょうか? 

 本件特許の請求項1は、 

(A)薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物と,
(B)薬物を含んでなる核を,(1)水不溶性物質,(2)硫酸基を有していてもよい多糖類,ヒドロキシアルキル基またはカルボキシアルキル基を有する多糖類,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコールから選ばれる親水性物質および(3)酸性の解離基を有しpH依存性の膨潤を示す架橋型アクリル酸重合体を含む被膜剤で被覆してなる放出制御組成物とを組み合わせてなる医薬。

 です。 ②に該当する証拠の提出は、出願人に課されたわけで、審判部に戻されたとしても、、、 ①は容易にクリアーしますが、②のクリアーは無理(難しい)でしょう! 多分、臨床試験では、(A)のみの確認試験はやっていないと思いますので、武田薬品、自爆でしょうか・・・ きっと、審判では、②を満たさないとして拒絶され、また、審決取消訴訟でしょうか! そうなったときに初めて、知財高裁の意向も読めると思いますが、転勤がつきものの裁判官ですから、飯村コートはその時まで待っていてくれるのでしょうか???

 

 

本日のキーワード: 68条の2について検討を加えると共に、武田の主張も要チェックです。

 

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平成20年(行ケ)第10458号 その2

 「2 先行処分に係る延長登録の効力の及ぶ範囲についての誤り
 当裁判所は,審決が,先行処分を理由とする特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力を,処分の対象となった品目とは関係なく,「有効成分(物)」,「効能・効果(用途)」を同一とする医薬品に及ぶものと解して,原告のした延長登録の出願に対して,政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないと判断した点に関し,特許法68条の2の解釈上の誤りがあると解する
(51頁)

 としています。 上告することで、知財高裁(飯村コート)の出した「解する」との考え方が間違いと判定されなくもないと思いますので、上告されるのか、上告されないのか、また、今後どのようにして登録査定又は拒絶査定が出されるのかについても要チェックです(何回も要チェックモードになります。)。

 これは,特許請求の範囲の記載によって特定される特許発明の技術的範囲が「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された範囲よりも広い場合に,「政令で定める処分」を受けることが必要なために特許権者がその特許発明を実施することができなかった範囲(「物」又は「物及び用途」の範囲)を超えて,延長された特許権の効力が及ぶとすることは,特許権者と第三者の公平を欠くことになるからである。すなわち,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許権者がその特許発明を実施する意思及び能力を有するにもかかわらず,特許法67条2項所定の「安全性の確保等を目的とする法律」の規定によりその特許発明の実施が妨げられた場合に,実施機会の喪失による不利益を解消させる制度であるから,そのような不利益の解消を超えて,特許権者を有利に扱うことは,制度の趣旨に反することになる。」(52頁)

 判決の根底として、審査を終えた状態から、初めて68条の2の判断ができるとの判示がなされたと考えられます。 すなわち、68条の2の解釈をする前に、審査の結果としての、「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された範囲が定まっている必要があるということであり、67条の3の拒絶理由を判断する際に、68条の2は、関係なく、67条の3の拒絶理由に該当しないとして、登録された後に、68条の2により効力範囲の調整が行われるということですね。 したがって、効力範囲の調整規定である68条の2に基づいて、67条の3第1項第1号を判断するのは、明らかにおかしいことになります。

 「以上のとおり,特許法68条の2は,特許発明の実施に薬事法所定の承認が必要であったことを理由として存続期間が延長された場合,当該特許権の効力は,薬事法所定の承認の対象となった物(物及び用途)についての当該特許発明の実施以外の行為には及ばないとする規定である。」(52頁)

 とりあえず、延長しちゃいなさいということでしょうか。 そして、権利範囲で調整すると。 この考え方は、先発メーカーに取っては、両刃の剣ですね。

 今までは、製剤特許とかでも、「有効成分」と「効能・効果」で延長がされていたわけですから、別製剤についても効力の延長がなされていたわけですよね(一応)。 ところが、今回の文理解釈により、承認を受けた製剤そのもの以外については、効力範囲外になりますので、虫食い申請を許す厚生労働省の動きからすると、先発の製剤に類似する製剤がより早く出てくることになりそうです!

 青本や注解特許法を眺めてみようと思います。

 「薬事法14条1項が,「医薬品・・・の製造販売をしようとする者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。」と規定しており,同項に係る承認に必要な審査の対象となる事項は,「名称,成分,分量,構造,用法,用量,使用方法,効能,効果,性能,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(薬事法14条2項3号参照。なお,平成16年法律第135号による改正前の薬事法14条2項柱書きでは,審査の対象となる事項は,「名称,成分,分量,構造,用法,用量,使用方法,効能,効果,性能,副作用等」とされている。)とされていること,薬事法14条9項が,「第一項の承認を受けた者は,当該品目について承認された事項の一部を変更しようとするとき(当該変更が厚生労働省令で定める軽微な変更であるときを除く。)は,その変更について厚生労働大臣の承認を受けなければならない。この場合においては,第二項から前項までの規定を準用する。」と規定していること(なお,平成16年法律第135号による改正前の薬事法14条7項の規定も同じ。)に照らすならば,薬事法上の「品目」とは,形式的には,上記の各要素によって特定されたそれぞれの物を指し,それぞれを単位として,承認が与えられるものというべきである。」(53頁)

 読み下すと、

 薬事法14条1項が,「医薬品・・・の製造販売をしようとする者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。」と規定しており,同項に係る承認に必要な審査の対象となる事項は,「名称,成分,分量,構造,用法,用量,使用方法,効能,効果,性能,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項とされていること,

 薬事法14条9項が,「第一項の承認を受けた者は,当該品目について承認された事項の一部を変更しようとするときは,その変更について厚生労働大臣の承認を受けなければならない。この場合においては,第二項から前項までの規定を準用する。」と規定していることに照らすならば,

 薬事法上の「品目」とは,形式的には,上記の各要素によって特定されたそれぞれの物を指し,それぞれを単位として,承認が与えられるものというべきである。

 なので、14条1項及び9項が重要です。

薬事法第十四条  医薬品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬品及び第二十三条の二第一項の規定により指定する体外診断用医薬品を除く。)、医薬部外品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬部外品を除く。)、厚生労働大臣の指定する成分を含有する化粧品又は医療機器(一般医療機器及び同項の規定により指定する管理医療機器を除く。)の製造販売をしようとする者は、品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない
 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の承認は、与えない。
 申請者が、第十二条第一項の許可(申請をした品目の種類に応じた許可に限る。)を受けていないとき。
 申請に係る医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器を製造する製造所が、第十三条第一項の許可(申請をした品目について製造ができる区分に係るものに限る。)又は第十三条の三第一項の認定(申請をした品目について製造ができる区分に係るものに限る。)を受けていないとき。
 申請に係る医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項の審査の結果、その物が次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
イ 申請に係る医薬品、医薬部外品又は医療機器が、その申請に係る効能、効果又は性能を有すると認められないとき。
ロ 申請に係る医薬品、医薬部外品又は医療機器が、その効能、効果又は性能に比して著しく有害な作用を有することにより、医薬品、医薬部外品又は医療機器として使用価値がないと認められるとき。
ハ イ又はロに掲げる場合のほか、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器として不適当なものとして厚生労働省令で定める場合に該当するとき。
 申請に係る医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器が政令で定めるものであるときは、その物の製造所における製造管理又は品質管理の方法が、厚生労働省令で定める基準に適合していると認められないとき。
 第一項の承認を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない。この場合において、当該申請に係る医薬品又は医療機器が厚生労働省令で定める医薬品又は医療機器であるときは、当該資料は、厚生労働大臣の定める基準に従つて収集され、かつ、作成されたものでなければならない。
 第一項の申請に係る医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器が、第十四条の十一第一項に規定する原薬等登録原簿に収められている原薬等(原薬たる医薬品その他厚生労働省令で定める物をいう。以下同じ。)を原料又は材料として製造されるものであるときは、第一項の承認を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該原薬等が原薬等登録原簿に登録されていることを証する書面をもつて前項の規定により添付するものとされた資料の一部に代えることができる。
 第二項第三号の規定による審査においては、当該品目に係る申請内容及び第三項前段に規定する資料に基づき、当該品目の品質、有効性及び安全性に関する調査(既に製造販売の承認を与えられている品目との成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能等の同一性に関する調査を含む。)を行うものとする。この場合において、当該品目が同項後段に規定する厚生労働省令で定める医薬品又は医療機器であるときは、あらかじめ、当該品目に係る資料が同項後段の規定に適合するかどうかについての書面による調査又は実地の調査を行うものとする。
 第一項の承認を受けようとする者又は同項の承認を受けた者は、その承認に係る医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器が政令で定めるものであるときは、その物の製造所における製造管理又は品質管理の方法が第二項第四号に規定する厚生労働省令で定める基準に適合しているかどうかについて、当該承認を受けようとするとき、及び当該承認の取得後三年を下らない政令で定める期間を経過するごとに、厚生労働大臣の書面による調査又は実地の調査を受けなければならない。
 厚生労働大臣は、第一項の承認の申請に係る医薬品又は医療機器が、希少疾病用医薬品、希少疾病用医療機器その他の医療上特にその必要性が高いと認められるものであるときは、当該医薬品又は医療機器についての第二項第三号の規定による審査又は前項の規定による調査を、他の医薬品又は医療機器の審査又は調査に優先して行うことができる。
 厚生労働大臣は、第一項の申請があつた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、同項の承認について、あらかじめ、薬事・食品衛生審議会の意見を聴かなければならない。
 申請に係る医薬品、医薬部外品又は化粧品が、既に製造販売の承認を与えられている医薬品、医薬部外品又は化粧品と、有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が明らかに異なるとき。
 申請に係る医療機器が、既に製造販売の承認を与えられている医療機器と、構造、使用方法、効能、効果、性能等が明らかに異なるとき。
 第一項の承認を受けた者は、当該品目について承認された事項の一部を変更しようとするとき(当該変更が厚生労働省令で定める軽微な変更であるときを除く。)は、その変更について厚生労働大臣の承認を受けなければならない。この場合においては、第二項から前項までの規定を準用する。
10  第一項の承認を受けた者は、前項の厚生労働省令で定める軽微な変更について、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣にその旨を届け出なければならない。
11  第一項及び第九項の承認の申請(政令で定めるものを除く。)は、機構を経由して行うものとする。

 申請に係る医薬品の名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項

 品目の品質、有効性及び安全性に関する調査(既に製造販売の承認を与えられている品目との成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能等の同一性に関する調査を含む。)

 との記載からすると、

 品質、有効性及び安全性には、名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用が含まれるということで、

 すなわち、

 品質、有効性、安全性についての審査とは、名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用の審査をするということです。 14条5項では、副作用が品質のうちから削除されているのですが、副作用については同一性よりも再度審査されるということでしょうか(成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能はいずれもポジティブな特性なので、同一性が担保されていれば問題ないですが、副作用については、成分~性能のいずれかが異なれば同一性が担保されることはないということで、再度審査されるということでしょうか。)。 この場合、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能が同一であれば、副作用も審査するとはいえ、同一ということでしょうかね。 逆にいうと、副作用は、成分~性能の同一性が示されれば、審査の対象ではないという道が示されているということでしょうか。

 したがって、薬事法上の、審査の対象は、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能ということになります(プラスとして、副作用)。

 「さらに,「用法」,「用量」,「使用方法」,「効能」,「効果」,「性能」は,「用途発明」における「用途」に該当することがあり得るとしても(この点,「用途」に該当するというためには,特許法上,「用途発明」として,保護されるべき内容を備えていること,すなわち,客観的な「物」それ自体の構成は同一であっても,「用途」が異なることにより,特許法上,「物」の発明として「同一」とは認められないと評価されるだけの内容を備えていることが必要である。),客観的な「物」それ自体の構成を特定するものではない。」(54頁)

 さらには、

 「したがって,「政令で定める処分」が薬事法所定の承認である場合,「政令で定める処分」の対象となった「物」とは,当該承認により与えられた医薬品の「成分」,「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味するものというべきである。なお,薬事法所定の承認に必要な審査の対象となる「成分」とは,薬効を発揮する成分(有効成分)に限定されるものではない。」(54頁)

 とすると、

 68条の2の解釈においては、

 物としては、「成分、分量、構造」であり、

 用途としては、「用法、用量、使用方法、効能、効果、性能」ということになります。

 これまでは、

 物としては、成分の一要素である、「有効成分」と、

 用途としては、「効能、効果」で判断していたということだったと思いますので、

 えらく権利範囲が狭まることになります。

 67条の3第1項第1号では、

 とりあえず、機構からの承認が下りていれば、①の要件はクリアーすると思いますが(より認められやすくなるというプラスの方向)、②の要件を満たすために、出願人が証拠の提出が求められることを考えると(負担の増大、秘密事項の開示必要というマイナスの方向)、結構、出願人(先発メーカー)にとって、マイナス面の方が大きく、良い判決とはいえないような気がしてきました。

 このことは、

 「以上のとおり,特許発明が医薬品に係るものである場合には,その技術的範囲に含まれる実施態様のうち,薬事法所定の承認が与えられた医薬品の「成分」,「分量」及び「構造」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施,及び当該医薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施についてのみ,延長された特許権の効力が及ぶものと解するのが相当である(もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,技術的範囲の通常の理解に照らして,当然であるといえる。)。」(54頁)

 と判示されていることからも、言えるのではないでしょうか。 それがゆえのなお書きでしょうね。 ようは、均等を持ち出さないと権利範囲が狭くなりすぎるということなのでしょう。 ここで、製剤特許で、製剤の成分がマーカッシュで記載されている場合に、その1つについて承認を受けた場合に、マーカッシュ中の他の成分についても、ジェネリックメーカーは承認を受けることができないということなんでしょうか? ここでいう、均等物や実質的に同一と評価される物とは何を意味しているのでしょうかね??? 分量が100mg錠である場合に、110mg錠ぐらいは均等物ということなんでしょうかね???

 「しかし,上記の説明は,合理性がない。すなわち,「承認」を受けることによって,禁止が解除される範囲に関して,①医薬品を特定する各要素によって画された範囲と解すべきか,②有効成分(物質)と効能・効果(用途)のみによって画された広い範囲と解すべきかの論点に対して,単に,「薬事法の本質」や「規制のポイント」との用語を使って結論を導いているにすぎず,およそ論理的な説明はされていない
 薬事法の承認が,多くの要素で画された単位でされている以上,その承認の効果は,特段の合理的な事情がない限り,その範囲を超えて効力を有することはないはずである。すなわち,製造販売の禁止が解除される範囲は,一要素にすぎない「有効成分」や「効能・効果」で画された範囲よりも狭いはずである。」
(59頁)

 前段では、特許庁の主張がぼろくそに叩かれています。 この判決を通して特許庁の主張でとりいれられた部分は一切ないので、仕方ないところなのかもしれませんけど。。。

 後段から、68条の2により延長される効力範囲は、非常に狭いということになることが明示されたといえます。

 「それにもかかわらず,物質を医薬品として製造販売することを規制することが薬事法の本質であるとして,物質(有効成分)で画された広範な範囲に解除の効果が生じるとする説明は,解釈論によって,特許権の存続期間の延長登録の出願の拒絶理由として,①「その特許権の存続期間が既に延長されたものであるとき。」,②「その特許発明が医薬品に関するものである場合において,当該発明が延長登録出願の理由とされた処分に先行する別の処分の対象となった医薬品と有効成分及び効能・効果において重複するとき。」を付加したのと同様の結果を導く,いわば事実上の立法をしたものと評価すべきであって,合理的な解釈とはいえない。」(60頁)

 こうなってくると、2011年に予定されているとかという噂の特許法の大改正で、立法するしかないでしょう! といいつつも、特許庁は立法府ではありませんけど。。。

 「また,医薬品の「成分」は,「有効成分」以外のものであっても,医薬品の有効性,安全性を左右することがあり,「分量」,「構造」も同様である。さらに,「用法」,「用量」,「使用方法」,「性能」,「副作用その他の品質」も,「効能」,「効果」と同じく,医薬品の有効性,安全性を左右するものである。」(62頁)

 「ところで,このような実務を前提とした上で考察すると,仮に,特許法68条の2の「物」を「有効成分」と解釈するとしたならば,薬事法所定の承認を受けた医薬品を技術的範囲に含まない請求項に係る発明についてまで,存続期間の延長登録の効果を及ぼすことになり,そのような結果は,特許権者に不当な利益を与え,本来の存続期間の満了後に特許発明を実施しようとする者に著しい不利益を課すことになり,存続期間の延長登録の制度の趣旨に反する,不公平な結果を招く。
 この点,「政令で定める処分」の対象となった「物」に係る存続期間の延長登録の効果が及ぶ範囲を,当該承認が与えられた医薬品の「成分」,「分量」及び「構造」によって画された「物」についての特許発明を実施する行為と解するならば,「物」を「有効成分」と解することによって生ずる,特許権の存続期間の延長登録の制度の趣旨に反する不当な結果を避けることができるものといえよう。」
(63頁)

 決定的ですね。。。 

 ただ、用法用量は、今後、物に付随してくるはずですが、特許法の審査における運用がまた否定されることになるのでしょうか。。。 医薬品における「物」を、成分、分量、構造に限った今回の判決をも考慮した基準作りがなされるのでしょうか。。。 飯村コートは、用法用量を、効能効果のように用途発明の観点から審査しなさいということを演繹しているのでしょうか。。。

 今後の手続きについても、

 「しかし,出願人は,願書に政令で定める処分の内容を記載し(特許法67条の2第1項4号),資料を添付しなければならないこと(特許法67条の2第2項),資料等に営業秘密が記載されている場合には,閲覧・謄写の制限も可能であること(特許法186条1項ただし書),詳細な情報が開示されないのは,特許庁が特許法68条の2にいう「物」を「有効成分」と解釈する実務を採用していることによるものであることからすれば,被告の上記主張は,特許法68条の2にいう「物」を「成分」,「分量」及び「構造」と解することを妨げる
ものとはいえない。」
(64頁)

 とはいえ、効力範囲にもろに影響を与える以上、承認を受けた部分については、公示する必要があるでしょうから、閲覧・謄写の制限はどうなんでしょうか? 法律上はできるようですが。。。 判決確定後のこの辺の運用の変遷にも留意が必要そうです。 今、存続期間の延長登録の出願したくないですね。。。

第百八十六条  何人も、特許庁長官に対し、特許に関し、証明、書類の謄本若しくは抄本の交付、書類の閲覧若しくは謄写又は特許原簿のうち磁気テープをもつて調製した部分に記録されている事項を記載した書類の交付(第三項において「証明等」という。)を請求することができる。ただし、次に掲げる書類については、特許庁長官が秘密を保持する必要があると認めるときは、この限りでない。

 願書、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面若しくは要約書若しくは外国語書面若しくは外国語要約書面若しくは特許出願の審査に係る書類(特許権の設定の登録又は出願公開がされたものを除く。)又は第六十七条の二第二項の資料
 拒絶査定不服審判に係る書類(当該事件に係る特許出願について特許権の設定の登録又は出願公開がされたものを除く。)
 特許無効審判若しくは延長登録無効審判又はこれらの審判の確定審決に対する再審に係る書類であつて、当事者又は参加人から当該当事者又は参加人の保有する営業秘密が記載された旨の申出があつたもの
 個人の名誉又は生活の平穏を害するおそれがあるもの
 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるもの
 
第六十七条の二  特許権の存続期間の延長登録の出願をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
 出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
 特許番号
 延長を求める期間(五年以下の期間に限る。)
 前条第二項の政令で定める処分の内容
 前項の願書には、経済産業省令で定めるところにより、延長の理由を記載した資料を添付しなければならない。

 67条の2第2項の資料は、

特許法施行規則第三十八条の十六  特許法第六十七条の二第二項の規定により、願書に添付しなければならない延長の理由を記載した資料は、次のとおりとする。
 その延長登録の出願に係る特許発明の実施に特許法第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたことを証明するため必要な資料
 前号の処分を受けることが必要であつたためにその延長登録の出願に係る特許発明の実施をすることができなかつた期間を示す資料
 第一号の処分を受けた者がその延長登録の出願に係る特許権についての専用実施権者若しくは登録した通常実施権者又は当該特許権者であることを証明するため必要な資料

 です。

 

  

本日のキーワード: 予定通りなのかしらん?

 

宿題: 武田薬品の主張内容&青本、注解特許法

 

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2009年6月 4日 (木)

武田薬品vs特許庁 2

 平成20(行ケ)10458等の裏でも、武田薬品と特許庁はバトルしてます。 まだ、深くは解析していないですが、完全に、ケ○カ腰ですな。。。 因みに、こちらは判例としての価値はほぼないですね(普通、やらない。。。)。 担当事務所はこちらです。

 

 平成20(行ケ)104761047710478

 

 ワザと?!?

 

 特許庁の審査が酷いですね。。。

 知財高裁で争うネタなんでしょうか。。。

 審判段階での主張ではない可能性が高いですけど。。。

 

 

本日のキーワード: 特許庁だいじょうぶですか?

 

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2009年6月 2日 (火)

武田薬品vs特許庁

 審決取消訴訟で、これまでの実務が大幅に変更になりそうな、判決が出されましたね。

 平成20(行ケ)104581045910460です。

 とうとう、日の目を見たというところでしょうか。 この事務所に頼んだのが良かったんですかね。 とはいえ、特許庁には、是非上告してもらいたいものです。

 

 T社の念願だった用法用量特許が認められる方向に進み、かつ、製剤特許でも存続期間の延長登録がなされると。 昨今の施策といい、先発よりですねぇ~ 今なら、医薬発明のそれはそれは厳しい実施可能要件の審査基準も覆せるかもしれません!!!

 

 業界の動き、要ウォッチングです。

 

 特許庁の特許権の存続期間の延長制度検討WGにも影響が出そうです。

 

 巷では、薬事法の改正による販売制度の変更がもっぱらのニュースですし、ちょっと前までは、豚インフルエンザのニュースで持ちきりでしたし、2010年を前に、製薬業界の賑わいが楽しみなことになっています。

 

 

本日のキーワード: 飯村コートは、とうとう特許庁の審査の運用だけでなく、過去の判例も否定し始めましたね。。。 ほんの2~3年前ですよね。。。

 

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2006年8月 5日 (土)

RUDOLPH VALENTINO事件

平成15(行ヒ)353 審決取消請求事件 商標権 平成17年7月11日 (最高裁)

裁判要旨

 商標法4条1項15号違反を理由とする商標登録の無効の審判請求が除斥期間を遵守したものであるというためには,除斥期間内に提出された審判請求書に,当該商標登録が同号に違反する旨の記載があることをもって足りる。

ポイント部分

 その趣旨は,・・・商標登録の無効の審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは,商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために,商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される。このような規定の趣旨からすると,そのような商標は,本来は商標登録を受けられなかったものであるから,その有効性を早期に確定させて商標権者を保護すべき強い要請があるわけではないのであって,除斥期間内に商標登録の無効の審判が請求され,審判請求書に当該商標登録が15号の規定に違反する旨の記載がありさえすれば,既存の継続的な状態は覆されたとみることができる。 そうすると,15号違反を理由とする商標登録の無効の審判請求が除斥期間を遵守したものであるというためには,除斥期間内に提出された審判請求書に,請求の理由として,当該商標登録が15号の規定に違反するものである旨の主張の記載がされていることをもって足り,15号の規定に該当すべき具体的な事実関係等に関する主張が記載されていることまでは要しないと解するのが相当である。

 

 旧法下での事件に対する判決だと思うが、

旧131条2項(商56条で準用) ← H10改正

 前項の規定により提出した請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない。 ただし、123条1項の審判以外の審判を請求する場合における前項3号に掲げる請求の理由については、この限りではない。

 無効審判については、請求の理由について要旨変更補正できなかったのに・・・ これは争い方がまずかったのかな? 

(判決:事案の説明)

 被上告人は,平成8年11月28日,本件商標登録を無効にすることについて審判を請求した。 

 被上告人が同日提出した審判請求書には,請求の理由として,・・・,詳細な理由は追って補充する旨が記載されていた。

 審判長は,・・・,,平成9年1月24日に発送した「手続補正指令書(方式)」により,請求の理由を記載した書面を提出することを命じた。 

 被上告人は,同年2月18日,請求の理由として,被上告人が婦人服,紳士服等の被服に使用する「VALENTINO GARAVANI」及び「VALENTINO」の各商標が本件商標の商標登録出願の日より前に著名となっていたから,上告人が本件商標をその指定商品に使用した場合には,被上告人の業務に係る商品であると誤解され,商品の出所に混同を生じさせるおそれがある旨を記載した書面を提出した。

 上告人は,除斥期間経過前に提出した審判請求書に請求の理由として適用条文しか記載されていない場合には,その経過後に請求の具体的な理由を記載した書面を提出しても除斥期間経過前に審判請求をしたことにはならないから,本件審判請求は不適法なものとして却下されるべきであるなどと主張した。

 

 請求の理由を補充する補正は、要旨変更に該当とすればよかったのではなかったか? あっと!!、この考え方が通用するのは、H10改正からだね。 H8年請求の無効審判だから、H10改正で入った本条文は使えない。 となると、こいつは、今の法律下では射程とならないのではないかい? とすると、こんな争い方になるわな・・・

 となれば高裁も、

(判決)原審は,・・・事情に照らせば,本件請求書には,本件商標は被上告人の上記表示との関係で混同を生ずるおそれがある商標である旨の無効理由の記載があるものと同視することができるから,本件審判請求は除斥期間を徒過した不適法なものではないと判断した。

となる。

 

 今みたく、無効審判については、請求の理由の要旨変更補正は認められていない状況で、この判例が最高裁判例とはいえ、重要判例になるのかな? ちょっと疑問。

 とすると、この判例は設問3の参考判例ではないな・・・!

 

 

本日のキーワード: 素直に要旨変更だったか・・・(H15改正本を読まねば・・・)

 

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2006年7月19日 (水)

ETNIES事件(類似必要的共同訴訟)

 論文試験から離れましてぇ~ 『類似』必要的共同訴訟を、本試1週間前まで『類推』必要的・・・って覚えていたのは私です。 何でだろぉ~♪

 

 拒絶査定不服審判に対する審決等取消訴訟は、固有必要的共同訴訟とされ、合一確定の要請から単独で請求することはできないとされている。

 特許を受ける権利が共有に係る場合、拒絶査定不服審判は共同でしなければならないことは、条文から明らか。

特許法132条3項

 特許権又は特許を受ける権利の共有者がその共有にかkる権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない。

(青本 342頁)

 特許権の共有者が審判請求人になる場合にあって、この場合も民事訴訟法にいう固有必要的共同訴訟に該当するものである。 本項の規定が適用あるのは拒絶査定に対して審判を請求する場合及び訂正審判を請求する場合である。 無効審判を請求する場合は、他人の特許権について請求する場合であるので(自己の特許権について無効審判を請求する場合は考えられないので)、ここにいう「共有に係る特許権について」には該当しない。

 

 青本にあるように、共有に係る特許権に対し、特許権者自身が無効審判を請求することはないので、単独でできるか否か論ずる必要はないが、無効審判の審決に対して審決等取消訴訟を提起する場合に、共有者の全員で請求しなければならないのかが問題となる。 従前は、無効審判に対するものであろうが、拒絶査定不服審判に対するものであろうが、審決取消訴訟は、固有必要的共同訴訟と解されていたようである。 因みに、無効審判の請求人が審決等取消訴訟を提起する際にも問題となろう。

 甲、乙の共有に係る特許権→丙、丁が共同で無効審判請求→

①無効審決→甲、乙は、単独で審決等取消訴訟を提起できるか?

②棄却審決→丙、丁は、単独で審決等取消訴訟を提起できるか?

 

平成13(行ヒ)142 審決取消請求事件 商標権 平成14年2月22日 (最高裁)

裁判要旨

 商標権の共有者の1人は,当該商標登録を無効にすべき旨の審決がされたときは,単独で無効審決の取消訴訟を提起することができる。

ポイント部分

(これまでの流れを踏襲した高裁判断)

 共有に係る商標権につき,商標登録を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という。)の取消しを求める訴えは,共有者の有する1個の権利の存否を決めるものとして,合一に確定する必要があり,固有必要的共同訴訟である。商標法は,商標登録を受ける権利又は商標権の共有者中に権利の取得又は存続の意欲を失った者がいる場合には,1個の商標権全体について,その取得又は存続ができなくともやむを得ないとしているから(商標法56条1項の準用する特許法132条3項等),無効審決に対する取消訴訟の場合に同様の扱いをすることが不合理とはいえない。

(最高裁の判断: 理由は3つ)

(1) 商標登録出願により生じた権利が共有に係る場合において,同権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同してしなければならないとされているが(商標法56条1項の準用する特許法132条3項),これは,共有者が有することとなる1個の商標権を取得するについては共有者全員の意思の合致を要求したものである。これに対し,いったん商標権の設定登録がされた後は,商標権の共有者は,持分の譲渡や専用使用権の設定等の処分については他の共有者の同意を必要とするものの,他の共有者の同意を得ないで登録商標を使用することができる(商標法35条の準用する特許法73条)。
 ところで,いったん登録された商標権について商標登録の無効審決がされた場合に,これに対する取消訴訟を提起することなく出訴期間を経過したときは,商標権が初めから存在しなかったこととなり,登録商標を排他的に使用する権利が遡及的に消滅するものとされている(商標法46条の2)。したがって,上記取消訴訟の提起は,商標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるから,商標権の共有者の1人が単独でもすることができるものと解される。そして,商標権の共有者の1人が単独で上記取消訴訟を提起することができるとしても,訴え提起をしなかった共有者の権利を害することはない。

 (2) 無効審判は,商標権の消滅後においても請求することができるとされており(商標法46条2項),商標権の設定登録から長期間経過した後に他の共有者が所在不明等の事態に陥る場合や,また,共有に係る商標権に対する共有者それぞれの利益や関心の状況が異なることからすれば,訴訟提起について他の共有者の協力が得られない場合なども考えられるところ,このような場合に,共有に係る商標登録の無効審決に対する取消訴訟が固有必要的共同訴訟であると解して,共有者の1人が単独で提起した訴えは不適法であるとすると,出訴期間の満了と同時に無効審決が確定し,商標権が初めから存在しなかったこととなり,不当な結果となり兼ねない

(3) 商標権の共有者の1人が単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解しても,その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には,その取消しの効力は他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項),再度,特許庁で共有者全員との関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法181条2項)。他方,その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には,他の共有者の出訴期間の満了により,無効審決が確定し,権利は初めから存在しなかったものとみなされることになる(商標法46条の2)。いずれの場合にも,合一確定の要請に反する事態は生じない。さらに,各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には,これらの訴訟は,類似必要的共同訴訟に当たると解すべきであるから,併合の上審理判断されることになり,合一確定の要請は充たされる。

 

 なお,最高裁昭和35年(オ)第684号同36年8月31日第一小法廷判決・民集15巻7号2040頁,最高裁昭和52年(行ツ)第28号同55年1月18日第二小法廷判決・裁判集民事129号43頁及び最高裁平成6年(行ツ)第83号同7年3月7日第三小法廷判決・民集49巻3号944頁は,本件と事案を異にし適切でない。

 と、判例変更ではありませんよ!のおまけ付き。

ようするに(かなりざっくばらんに)、

理由1: 登録商標の使用は、共有者の断りなくできるのだから、その使用の権能を守るべく、審決等取消訴訟の請求は、無効審決の確定による遡及消滅を避けるための保存行為なので、単独請求可。

理由2: 原則いつでも無効審判は請求できるので、共有者が不明になった場合、共有者にやる気がない場合に単独で請求できないのは不都合。

理由3: 合一確定の要請は満たされるからいいんでないかい。

 

 驚きは、特許法の判例ではないのね! シラナンダぁ~。 まぁ~、射程は同じだと思うので、商標に関する判例であっても、特許にも類推適用できるのに疑いはないと思うけど、特許の異議決定についての事案を先に判示しなかったのは何ででしょ???

 

 この判決で、拒絶審決に対する審決等取消訴訟の場合とは、無効審決に対する審決等取消訴訟は考え方が違うんですよと判示されちまったもんだから、なんだけど、分けないで欲しいよね。 まぁ、権利が変動する場合は、合一確定の要請が強く出て、権利そのものが争いになっていて、その内容が変動しない場合には、保存行為が強く出てくるって理解しておりますが。。。

 特許の場合だと、無効審決→単独で審決等取消訴訟請求→訂正審判請求したし、だけど、共有に係る場合は、単独で訂正審判請求しても却下処分→審決等取消訴訟は提起できたけど、意味なしってなりそう。 せっかく、保存行為なので単独請求可能ってなっていても、うまく機能してくれるのかしらん!! その時は、訴訟を提起しない共有者は特許権を放棄しているような状態だから、権利を譲り受けて、訂正審判の単独請求を可能にするんでしょうな!!! だったら、審決取消訴訟の前に権利の譲渡してもらえばよいではないか! うみょぉ~。 

 

 平成14(行ヒ)12 審決取消請求事件 商標権 平成14年2月28日 (最高裁) & 平成13(行ヒ)154 特許取消決定取消請求事件 特許権 平成14年3月25日 (最高裁) とは、本判決と時をほぼ同じくして出された同内容の判決。 なぜだか、平成14(行ヒ)12は合議体の構成員が全く違うし4人だし。 残り2つは5人の合議体は同メンバー。

 

本日のキーワード: ETNIES 事件

 

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2006年7月17日 (月)

学習机事件(意26条)

 部分意匠と全体意匠で利用関係って成立するのかって、微妙じゃねぇのか? 学習机事件でも、判事されてる利用関係って非類似の場合なんだよねぇ。。。 学説諸々までは、勉強する気にはならん!!・・・しなぁ、、、

 やっぱし、特許の利用と違って、意匠の利用は難しい。。。

 しかも、減速機付きモーター事件って、最高裁までいってるやんかぁ~ 知らんかったぞぉ!!! 明日は、高裁判決の確認じゃぁ~~!!!

  

昭和45(ワ)507 民事訴訟 意匠権 昭和46年12月22日 (大阪地裁)

ポイント

 本件登録意匠と被告意匠とを全体的に対比観察すると、本件登録意匠は単なる机の意匠であるのに対し、被告意匠は机に書架を結合して一個の物品となした学習机の意匠であつて、両者の意匠にかかる物品は同一性がなく、被告意匠は単なる机のみの意匠とは異なる審美感を惹起せしめるものと認められるから、意匠全体を比較すれば両者は非類似であるといわねばならない

 原告は、被告意匠は本件登録意匠を利用するものである旨主張し、被告はこれを争うので、まず、意匠の利用に関する当裁判所の見解を明らかにすることとする。
 意匠の利用とは、ある意匠がその構成要素中に他の登録意匠又はこれに類似する意匠の全部を、その特徴を破壊することなく、他の構成要素と区別しうる態様において包含し、この部分と他の構成要素との結合により全体としては他の登録意匠とは非類似の一個の意匠をなしているが、この意匠を実施すると必然的に他の登録意匠を実施する関係にある場合をいうものと解するのが相当である。意匠法第二六条は登録意匠相互間の利用関係について規定するが、意匠の利用関係のみについていえば、他の登録意匠を利用する意匠はそれ自体必ずしも意匠登録を受けている意匠である必要はなく、意匠の利用関係は登録意匠と未登録意匠との間にも成立するものであり、他人の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用した未登録意匠の実施が、他人の当該意匠権の侵害を構成することは勿論である。ところが、意匠権者は登録意匠及びこれに類似する意匠の実施を有する権利を専有する(意匠法第二三条)ところから、他人の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用した意匠が偶々自己の登録意匠又はこれに類似する意匠である場合には、利用された側の意匠権者の独占的排他権と利用する側の意匠権者の実施権とが衝突するため、両者の関係を調整する必要がある。意匠法第二六条はかかる場合双方の登録意匠の出願の先後関係により先願の権利を優先せしめ、後願の登録意匠又はこれに類似する意匠が先願の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用するものであるときは、後願にかかる意匠権の実施権をもつて先願にかかる意匠権の排他権に対抗しえないこととしたのである
 意匠の利用関係が成立する態様は、大別すると次の二つとなる。その一は意匠に係る物品が異なる場合であり、A物品につき他人の登録意匠がある場合に、これと同一又は類似の意匠を現わしたA物品を部品とするB物品の意匠を実施するときである。その二は意匠に係る物品が同一である場合であり、他人の登録意匠に更に形状、模様、色彩等を結合して全体としては別個の意匠としたときである。
右のいずれの場合であつても、意匠中に他人の登録意匠の全部が、その特徴が破壊されることなく、他の部分と区別しうる態様において存在することを要し、もしこれが混然一体となつて彼此区別しえないときは、利用関係の成立は否定されることを免れない。

 

 この判決がでた当時は、部分意匠と全体意匠における利用関係は存在しなかったから、非類似関係にある意匠について利用関係が成立するとしていると考えられる。 組物の意匠と構成物品の利用関係については、この利用関係の判決内容を類推適用し、そのまま当てはめても問題ないと思われるけど。。。 部分意匠と全体意匠とが同一又は類似といえる場合に、利用関係も成立するのだろうか???

 ↑ ここは、よく分かんないので別にしとくとしといて。

 &

 特許の場合、自己の特許権に基づく抗弁を後願権利者がしてきた時に、72条は、再抗弁事由であると認識していたのだが(72条で侵害ってあまり聞いたことない。)、意匠の場合、26条の侵害って巷では聞くように、先願意匠と非類似の関係になると、意匠権の侵害でなくなるので(23条)、26条侵害とでもいうべき侵害の主張がなされている気がする。 積極的に、先願権利者が、23条侵害→利用関係があるので侵害(23条 or 26条)ってしている気がする。

 特許の場合、発明特定事項の全てを充足しているか否かが、侵害に該当するかの判断基準となることから、72条を持ち出すまでもないんだよね。

 利用関係が成立するなら、判示されているように、先願権利の消極的効力に対し、後願権利の積極的効力が対抗できない。 これは、条文からも明らかだから、疑問の余地はない。

 

26条1項

 意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠がその意匠登録出願の日前の出願にかかる他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、・・・を利用するものであるとき、・・・、業としてその登録意匠の実施をすることができない。 

 

 逆に、先願権利の積極的効力は、後願権利の消極的効力に対抗しうるのだろうか?  条文上は、「実施をすることができない。」と積極的効力のみ制限しているので、消極的効力は制限されていないので、先願権利に対して対抗し得るという風に考えるのかな? それとも、裁定実施権の場合、先願権利者からはクロスの裁定のみをし得るってことを考えると、先願権利者といえども実施できないって考えるのかしらん。 きっと、先願権利者が実施できないっていうのは、間違いでないと思うんだけど。。。。 ただ、厳密に先願権利者は常に実施できないってするのも微妙だよなぁ。。。。 図面には同じ意匠が書いてあるのに、部分意匠の先願権利者が、全体意匠の後願権利が発生すると実施できなくなるってぇのもへんてこりんだもの。

 特許の場合、穴あき説のように考えれば先願権利の積極的効力は制限されても仕方ないといえようが、意匠の場合、部分意匠と全体意匠におけるように、ほとんど同じような範囲で先願主義に反することなく、すなわち、過誤なく権利が設定されることから、穴あき説的に考えるのも微妙である。 それとも部分意匠を選択した先願権利者がいけないのだろうか!! 

 

 弁理士になった時には、こういった錯綜を排除するためにも部分意匠&全体意匠の権利を取得すべし!ってアドバイスする必要があろうなぁ。。。 って、意匠の出願はやらんだろ!!!オレ。  図面かけましぇ~ん(TへT)

 

 もう一度考察が必要である。 やっぱ、難しい。。。。

 

本日のキーワード: 利用関係、推考するほど 頭パニック。

 

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2006年7月16日 (日)

減速機付きモーター事件(意26条)

ちょっと長くなるけど、引用。

 

平成14(ワ)5556 民事訴訟 意匠権 平成15年1月1日 (東京地裁)

ポイント

(1)本件登録意匠に係る物品と被告製品の物品とを対比すると,本件登録意匠に係る物品は減速機であるのに対し,被告製品は,減速機部分にモーター部分を連結して一個の物品となした減速機付きモーター(ギヤードモーター)であるから,両者は物品が異なり,被告製品の意匠は本件登録意匠と同一又は類似であるということはできない。
 また,原告が主張するように,利用関係による意匠権の侵害が認められるとしても,前記認定に係る本件登録意匠の要部は,前記3認定の事実からすると,被告製品の意匠においては,外部から認識できないから,このような場合には,利用関係が存すると認めることはできず,したがって,利用関係による意匠権の侵害も認められない

(2)この点,原告は,本件登録意匠との類否判断の対象となるべき製品は,被告製品の減速機部分であると主張するが,前記認定のとおり,減速機部分は,ねじでモーター部分と固定されており,減速機部分は減速機付きモーターの一構成部分にすぎないというべきであるから,被告製品の減速機部分のみを切り離して本件登録意匠との類否判断の対象とすることはできないというべきである(もっとも,利用関係の判断に当たっては,減速機部分のみを類否判断の対象にすることがあり得るが,利用関係も成立しないことは前述のとおりである。)

 また,原告は,意匠法は意匠の持つ「形態価値」を保護するものであり,「形態価値」を保護するためには保護されるべき意匠が物品の流通過程で見えるかどうかは問題ではなく,モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」と,減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目しなければならないと主張するが,意匠法において意匠とは,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美観を起こさせるものをいい(意匠法2条1項),また,意匠保護の根拠は,流通過程における混同防止にあると解されるから,意匠法の保護の対象となるのはあくまで物品の外観であって,外観に現れず,視覚を通じて認識することがない物品の隠れた形状は,意匠権侵害の判断に当たっては考慮することはできないというべきであり,この点は,利用関係の判断に当たっても変わらないというべきである。原告が主張するように,モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」や,減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目したとしても,減速機付きモーターにおいて登録意匠の要部が外観に現れなければ,意匠権侵害といえないことは,前述のとおりであって,これらに注目したところで結論が変わるものではない。

 

ようするに、

(1)で、判決における趣旨は判示されているも、(2)においてさらに、原告の主張をさらに否定するために判決理由を補強している。 

 登録意匠に係る物品が「減速機」であり、イ号製品の物品は「減速機付きモーター」であるから、物品が非類似であり、意匠も非類似である。

 「減速機付きモーター」は、形式上「減速機」を利用するものであるが、イ号製品において、減速機の意匠を視認できないから、利用関係による意匠権の侵害もない。

 意匠法の趣旨は、流通過程における混同防止にあるので、意匠法の保護対象はあくまで物品の外観となる。 視覚を通じて認識できない部分は、意匠権の侵害においては考慮されない。

 

 となると、本試験においても、いきなり、意匠の真髄は、物品の美的外観にあるから、視覚を通じて認識できない部分は、意匠権の侵害において考慮されないとだけ書いたのは、心証悪くね?って感じ。

まずは、

 甲の輸入・販売する「冷蔵庫」は、乙の登録意匠に係る物品の「熱交換器」と、物品の機能・用途が異なるので、物品は非類似であり、両意匠は非類似である。 よって、冷蔵庫を輸入・販売する甲の行為は、乙の意匠権の侵害を構成しない(23条)。 しかしながら、登録意匠に係る「熱交換器」の意匠ニと同一形状の熱交換器αを冷蔵庫βは内蔵していることから、冷蔵庫βは、意匠ニ(熱交換器α)をそっくりそのまま取り込んでおり、利用関係が成立する(26条)。 したがって、冷蔵庫βを実施する行為は、形式的には、乙の意匠権の侵害を構成する(23条、26条)。 

 しかしながら、冷蔵庫においてαは外部から見えないように内臓されていることから、αを外部から見れない以上、意匠権の侵害を構成しない解するのが相当である。 なぜならば、意匠とは、物品の美的外観をいい(2条1項)、視覚を通じて視認することができない意匠の形状は、意匠を構成するものとはいえず、意匠権の侵害において考慮すべきでないと解されるからである。

 

本番で、ここまでは書けんは!!

 

 今まで知らなかったけど、というか、減速機付きモーター事件って利用関係の判例だと思っていたんだけど、読んでみると、論点は、視認性の問題じゃね?って思える。

 利用関係の判例って結局のところ、学習机しかないのかしらん。

 

 利用関係については、何等本判決では、述べておらず、唯一、「原告が主張するように,利用関係による意匠権の侵害が認められるとしても」だけなのよねん。 原告も、特に利用とは!とかいってるわけじゃないし・・・

 唯一、被告が、

 意匠の利用関係ないし包含関係が成立するためには,意匠中に他人の登録意匠の全部がその特徴を破壊することなく,他の部分と区別しうる態様において存在することを要し,もしこれが混然一体となって彼此区別し得ないときは利用関係の成立は否定されるというべきところ

って、主張しているけど、これって、完全に、学習机事件だよね。

 

 裁判では、弁論主義が採用されているから、取り敢えず、主張1と主張2の理論構成が破綻しようが何しようが、思いつくかぎりの主張なり、抗弁はしなくちゃいかんのねぇ~って実感。 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦が、本試でも必要とされているテクなのね。 裁判とは、究極エゴとエゴのぶつかり合いで、ごねたもん勝ちみたいなところがありそうであ~る。 とすると、実社会と違うのは、裁判官が法に基づいて、ちょっとだけお墨付きを与えてくれるってとこと、お金を適法にせびり取れるってことかしらん。

 

本日のキーワード: 利用は、学習机事件だな。

 

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2006年7月15日 (土)

BOSS事件

昭和61(ワ)7518 民事訴訟 商標権 昭和62年8月26日 (大阪地裁)

ポイント部分

  商標法上商標は商品の標識であるが(商標法二条一項参照)、ここにいう商品とは商品それ自体を指し商品の包装や商品に関する広告等は含まない(同法二条三項参照)。商標権者は登録商標を使用する権利を専有し、これを侵害する者に対し差止請求権及び損害賠償請求権を有するが、それは商品についてである(同法二五条参照)。したがつて、商標権者以外の者が正当な事由なくしてある物品に登録商標又は類似商標を使用している場合に、それが商標権の侵害行為となるか否かは、その物品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であるか否かに関わり、もしその物品が登録商標の指定商品と同一又は類似ではない商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎない場合には、商標権の侵害行為とはならない。そして、ある物品がそれ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎないか否かは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによつて判定すべきものである。
 これを本件についてみるに、被告は、前記のとおり、BOSS商標をその製造、販売する電子楽器の商標として使用しているものであり、前記BOSS商標を附したTシヤツ等は右楽器に比すれば格段に低価格のものを右楽器の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として被告の楽器購入者に限り一定の条件で無償配付をしているにすぎず、右Tシヤツ等それ自体を取引の目的としているものではないことが明らかである。また、前記認定の配付方法にかんがみれば、右Tシヤツ等はこれを入手する者が限定されており、将来市場で流通する蓋然性も認められない
 そうだとすると、右Tシヤツ等は、それ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく、商品たる電子楽器の単なる広告媒体にすぎないものと認めるのが相当であるところ、本件商標の指定商品が第一七類、被服、布製身回品、寝具類であり、電子楽器が右指定商品又はこれに類似する商品といえないことは明らかであるから、被告の前記行為は原告の本件商標権を侵害するものとはいえない。

 

特許庁のあげている

① 販促品と商標法上の商品概念ないし商標的使用

との論点であるが、「販促品と商標上の商品概念」は判例から導けるかと思うが、「商標的使用」という論点とは、何を論ずるべきだったのか考察したい。

「ないし」だから、2つあるということだよね。

 

田村善之「商標法概説第2版」240頁~によれば、

 有償性要件は、宣伝広告用、販売促進用に無償で配布されるノヴェルティに関し、商品該当性を否定する文脈で語られることが多い。 (略) 本件のTシャツ等はそれ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく、(本件指定商品とは非類似の)電子楽器の単なる広告媒体に過ぎず、ボス社の行為は商標権を侵害しないと判示した判決がある。 この判決は、商品の要件として有償性が商標法上の商品の要件であることを明らかにした判決であると理解されることが多い。 

 (略) この事件で決定的であるとおもわれるのは、主商品である電子楽器に用いられた商標と、ノヴェルティに付された商標が同じものであったということである。さらに、ノヴェルティの配布先は、主商品である電子楽器の購入者に限られている。 このような事情の下では、ノヴェルティに付された「BOSS」標章を見た消費者は、そのマークが電子楽器類の出所を識別していると認識するであろう。 本件において、ノヴェルティは電子楽器類の単なる広告媒体以上のものとして認識されることはないといえる。 ゆえに、ノヴェルティに付された「BOSS」標章は、電子楽器に「使用」されていると評価されるから、本件商標権の指定商品である被服等と電子楽器が非類似である以上、商標権侵害が否定されることになる。

243頁には、小括として、

 商標権侵害の場面では、無償の商品といえども侵害を肯定すべき場合があり、そこで真に問題とすべきことは、物品に付された商標が主商品の出所を識別するような態様で使用されているかどうかということなのであって、これが肯定される場合には、商標権侵害が否定され、逆にこれが否定される場合には商標権侵害が肯定されるべき関係にある。

更に進めて、244頁には、

 以上のような検討を前提とすると、はたして無償性の問題を「商品」該当性というところで考えるべきかどうかということが問題となる。 特に商標権侵害の場面で問題とすべきことは、従来、商標の「使用」のところで問題とされてきた事情にほかならない。 たとえば、BOSS事件におけるTシャツは、巨峰事件におけるダンボール箱に当たる。 巨峰事件においてダンボール箱に付された「巨峰」マークがダンボール箱ではなく巨峰ぶどうを表示する商標として使用されているのであれば、BOSS事件においてTシャツに付された「BOSS」マークは、やはりTシャツではなくBOSS社の電子楽器を表示する商標として使用されているといえる。 したがって、商標権侵害の場面においては、無償性の問題は、「商品」該当性ではなく、商標の「使用」のところで議論すべきである。

 

 これらを踏まえると、

 「甲(株式会社CBAコーヒー)は、「CBAコーヒー」の名称で喫茶店を運営している」なる点から、甲は、商品「コーヒー(30類)」及び役務「コーヒーを主とする飲食物の提供(43類)」について、商標「CBAコーヒー」を使用していると、理解されよう。

 「10回来店し顧客に対し「CBAコーヒー」の文字を側面部に表示したマグカップを無償提供するサービスをし、」とあることから、マグカップには、「CBAコーヒー」なる標章が付されているものの、マグカップ自体は、いわゆるノヴェルティグッズである。

 

 とすると、第1の論点である、商品該当性については、BOSS事件に従ってみると、

 商標法上の商品とは、商取引の目的足りうべき物、特に動産をいう。とされている(2条1項1号)。 甲が、マグカップを独立の商取引の目的物たる物としてではなく、ノヴェルティグッズとして、顧客に対し無償提供しているので、マグカップは、商標法にいう商品に該当しない。 したがって、甲は、乙の商標権を侵害を構成しない旨の否認の主張をなし得る(25条、37条1号)。

 ようは、そもそも商品ではないということ(2条1項1号、2号)。

 第2の論点としては、

 マグカップに付された標章「CBAコーヒー」は、甲の役務「コーヒーを主とする飲食物の提供」の単なる広告媒体にすぎないものと認められる(2条3項8号)。 そして、役務「コーヒーを主とする飲食物の提供」と乙の登録商標に斯かる指定商品「マグカップ」とは非類似の関係にあるので、乙の商標権の侵害には該当しない(25条、37条1号)。

 ようは、商標の使用といっても、非類似役務についての使用でしょということ(2条3項8号)

とするのが、妥当なラインであろうか。

 

 しかし、BOSS事件は、役務商標がない時代の判例であるし、「右Tシヤツ等はこれを入手する者が限定されており、将来市場で流通する蓋然性も認められない。」との部分とかは、今の時代微妙だよね。 ノヴェルティグッズ=市場での流通性ないともいいきれないしね。 何だか、BOSS事件をそのまま理解してますか?って聞いてる感じがする設問だけど、下の方がいいなぁ。

田村説に従って、

 マグカップに付された標章「CBAコーヒー」は、あくまで、甲の役務である「コーヒーを主とする飲食物の提供」を表示する商標として使用しているのであって、役務「コーヒーを主とする飲食物の提供」と乙の登録商標に斯かる指定商品「マグカップ」とは非類似の関係にあると認められるので、乙の商標権の侵害には該当しない(25条、37条1号)。

 

 いまいち、まとまりが悪いけど、これ以上やるとはまるので、ここで一先ず終了。

 この検討で、ダダ落とし判明。。。 ボロボロであーる。

 

 せめて、

 甲は、商標「CBAコーヒー」を「マグカップ」の出所の識別力を発揮させるために使用しているのではない(2条1項1号)。 また、甲はあくまで、自己の役務「コーヒーを主とする飲食物の提供」に商標の広告宣伝機能を発揮させるべく、ノヴェルティ商品の「マグカップ」に商標「CBAコーヒー」を付している(2条3項8号)。 よって、役務「コーヒーを主とする飲食物の提供」と商品「マグカップ」とは非類似の関係にあるので、乙の商標権の侵害を構成しない。

と、書きたかった。。。

 

 

本日のキーワード: 役務と商品の類似(口述対策にもなるのぉ~)

  

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