中山特許法上【その5 ~113頁】
「未完成発明は、特許法上の発明とは言えない。 ・・・ 未完成発明とは、一応発明らしき外観を呈しているものの、その発明の課題解決の具体的方法に欠けているものを指す。 このような未完成発明は、単なる思いつきに過ぎず、第三者はその明細書を見ただけでは実施することはできないため、社会一般の技術水準の向上に役立つものではないものが多い(108頁)。」
「化学は実験の科学と言われ、実験により裏付けられていない以上、・・・、実施例あるいはそれから当業者が容易に実施できる範囲を超えている部分については、発明未完成とされるのがわが国の実務である(108頁)。」
「未完成発明については、特許法29条1項柱書に該当しない、という理由によって拒絶査定を受ける。 ただし、発明の完成、未完成は出願書類によってのみ判断されるため、現実には開示不十分との区別が判然としないこともある(109頁)。」
「実施例等によって化学反応の裏付け、作用効果の確認がなければ、発明未完成か開示不十分とする外なく、そのいずれかが明らかでないときは、未完成発明としても誤りではない。(110頁)」
29条1項
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
36条4項
前項三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
1号 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること
この条文の流れを考えると、やはり先ずは、発明に該当することが要件である。 発明として完成していなければ、先ずもって出願の体をなさないはずなので、36条を考察する余地もないといえよう。 発明に該当するけれど、記載ぶりが悪いから、その記載内容では実施をすることができないというのが、本来の条文のつくりだろうけど。。。 法改正によって、「実施をすることができる程度に明確かつ十分に」なるに実施可能要件を変更したことによって、未完成発明と開示不十分との境界がより分かりにくくなったのではないだろうか。 現行、未完成発明か開示不十分のどちらに該当するのかなんて考えずに、審査実務では全て36条4項違反となっているであろう! そういった意味では、要件を「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に」としたことにより、発明としては成立しているけど、開示が不十分ですよという本来の36条4項の趣旨を超えて、未完成発明までも含む運用となっている気来があるのではなかろうか? 「明確かつ十分」ってそりゃ曖昧だよね。 その点、従前の36条4項は、「容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成、効果」として開示すべき点が明確であったので、未完成発明については、29条1項柱書違反とすることもあったのであろう。 まぁ、「構成」が記載されていないとして、未完成発明に該当するものも36条4項違反とされることもあったろうが。 でも、この問題はデリケートだ。 ぶっちゃけ今はどっちでもいいだろう。 どうせ、36条4項違反である。
しかし、審査基準ってなんで、記載要件から入るんだろう。。。 条文上は29条が先にあるのだから、29条の判断が先にくるのではないのかな? 記載要件が先にあって、そこで、実施可能要件を見てしまうから、もはや、未完成発明として29条1項柱書違反の拒絶理由がくることはないのでは・・・
発明に該当しないものとして、審査基準では、
①自然法則それ自体
②単なる発見であって創作でないもの
③自然法則に反するもの
④自然法則を利用していないもの
⑤技術的思想でないもの
⑥発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの
と、6類型を提示している。 ここから考えると、⑥は未完成発明のことを意味しているともいえそうだけど、その例示されているのを考慮すると、未完成発明というよりは、前提となる論理が破綻しているものといえそうなものを意味しているので、未完成発明は⑥の類型に合致するとはいいづらいだろう。 ある意味未完成発明だが、まぁ、⑥は未完成発明というよりは、不可能発明とでもいうところだ。
産業上利用することができない発明としては、
①人間を手術、治療又は診断する方法
②その発明が業として利用できない発明
③実際上、明らかに実施できない発明
ある意味、③が未完成発明といえそうでもあるけど。。。
でも、③はあくまで、産業上利用することができない発明に該当する類型なので、発明としては成立していると考えられるので、やっぱり、未完成発明とはいえないかな。
ようは、未完成発明については、審査基準上、29条1項柱書違反になることは明示されてない。 なんだか最近グダグダなので、弁理士試験に志向するように、舵をきりなおさないと・・・
「微生物に係る発明で、当業者がその微生物を容易に入手できない場合、その微生物を特許庁長官の指定する期間に寄託しない限り、その発明は未完成として扱われる。 ・・・、書面主義の例外として、当該微生物の寄託により、発明完成として扱われることになる(109頁)。」
特許法施行規則27条の2第1項
微生物に係る発明について特許出願しようとする者は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその微生物を容易に入手することができる場合を除き、・・・受託証のうち最新のものの写し又は特許庁長官の指定する機関にその微生物を寄託したことを証明する書面を願書に添付しなければならない。
寄託自体は出願時にはなされてないといけないということだろう。
本日のキーワード: 口述では、原則と例外が重要で、原則から流すこと。
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