2006年7月27日 (木)

中山特許法上【その5 ~113頁】

 「未完成発明は、特許法上の発明とは言えない。 ・・・ 未完成発明とは、一応発明らしき外観を呈しているものの、その発明の課題解決の具体的方法に欠けているものを指す。 このような未完成発明は、単なる思いつきに過ぎず、第三者はその明細書を見ただけでは実施することはできないため、社会一般の技術水準の向上に役立つものではないものが多い(108頁)。」

 「化学は実験の科学と言われ、実験により裏付けられていない以上、・・・、実施例あるいはそれから当業者が容易に実施できる範囲を超えている部分については、発明未完成とされるのがわが国の実務である(108頁)。」

 「未完成発明については、特許法29条1項柱書に該当しない、という理由によって拒絶査定を受ける。 ただし、発明の完成、未完成は出願書類によってのみ判断されるため、現実には開示不十分との区別が判然としないこともある(109頁)。」

「実施例等によって化学反応の裏付け、作用効果の確認がなければ、発明未完成か開示不十分とする外なく、そのいずれかが明らかでないときは、未完成発明としても誤りではない。(110頁)」

 

 29条1項

 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

 36条4項

 前項三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。

1号 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること

 

 この条文の流れを考えると、やはり先ずは、発明に該当することが要件である。 発明として完成していなければ、先ずもって出願の体をなさないはずなので、36条を考察する余地もないといえよう。 発明に該当するけれど、記載ぶりが悪いから、その記載内容では実施をすることができないというのが、本来の条文のつくりだろうけど。。。 法改正によって、「実施をすることができる程度に明確かつ十分に」なるに実施可能要件を変更したことによって、未完成発明と開示不十分との境界がより分かりにくくなったのではないだろうか。 現行、未完成発明か開示不十分のどちらに該当するのかなんて考えずに、審査実務では全て36条4項違反となっているであろう! そういった意味では、要件を「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に」としたことにより、発明としては成立しているけど、開示が不十分ですよという本来の36条4項の趣旨を超えて、未完成発明までも含む運用となっている気来があるのではなかろうか? 「明確かつ十分」ってそりゃ曖昧だよね。 その点、従前の36条4項は、「容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成、効果」として開示すべき点が明確であったので、未完成発明については、29条1項柱書違反とすることもあったのであろう。 まぁ、「構成」が記載されていないとして、未完成発明に該当するものも36条4項違反とされることもあったろうが。 でも、この問題はデリケートだ。 ぶっちゃけ今はどっちでもいいだろう。 どうせ、36条4項違反である。

 

 しかし、審査基準ってなんで、記載要件から入るんだろう。。。 条文上は29条が先にあるのだから、29条の判断が先にくるのではないのかな? 記載要件が先にあって、そこで、実施可能要件を見てしまうから、もはや、未完成発明として29条1項柱書違反の拒絶理由がくることはないのでは・・・

 

発明に該当しないものとして、審査基準では、

①自然法則それ自体

②単なる発見であって創作でないもの

③自然法則に反するもの

④自然法則を利用していないもの

⑤技術的思想でないもの

⑥発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの

と、6類型を提示している。 ここから考えると、⑥は未完成発明のことを意味しているともいえそうだけど、その例示されているのを考慮すると、未完成発明というよりは、前提となる論理が破綻しているものといえそうなものを意味しているので、未完成発明は⑥の類型に合致するとはいいづらいだろう。 ある意味未完成発明だが、まぁ、⑥は未完成発明というよりは、不可能発明とでもいうところだ。

  

産業上利用することができない発明としては、

①人間を手術、治療又は診断する方法

②その発明が業として利用できない発明

③実際上、明らかに実施できない発明

ある意味、③が未完成発明といえそうでもあるけど。。。

 でも、③はあくまで、産業上利用することができない発明に該当する類型なので、発明としては成立していると考えられるので、やっぱり、未完成発明とはいえないかな。

 

 ようは、未完成発明については、審査基準上、29条1項柱書違反になることは明示されてない。 なんだか最近グダグダなので、弁理士試験に志向するように、舵をきりなおさないと・・・

 

 「微生物に係る発明で、当業者がその微生物を容易に入手できない場合、その微生物を特許庁長官の指定する期間に寄託しない限り、その発明は未完成として扱われる。 ・・・、書面主義の例外として、当該微生物の寄託により、発明完成として扱われることになる(109頁)。」

 特許法施行規則27条の2第1項

 微生物に係る発明について特許出願しようとする者は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその微生物を容易に入手することができる場合を除き、・・・受託証のうち最新のものの写し又は特許庁長官の指定する機関にその微生物を寄託したことを証明する書面を願書に添付しなければならない。

 寄託自体は出願時にはなされてないといけないということだろう。 

 

 

本日のキーワード: 口述では、原則と例外が重要で、原則から流すこと。

 

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2006年7月25日 (火)

中山特許法上【その4 ~94頁】

 「職務発明であっても、自己の使用者にそれらの譲渡等をなすには他の共有者の同意をとらなければならない。(87頁)」

 特許を受ける権利が共有に係るとき、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することはできない(33条3項)。 そして、特許権が共有に係るとき、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡できない(73条1項)。 となると、共同研究などで、別会社の従業者が共同で発明をした場合に問題が生じる。 予約承継の旨の契約、勤務規則その他の定めの条項があっても、特許を受ける権利や特許権が承継されないということである。 従業者が、共同発明者の同意を得る必要があるということである。 いまどき、特許を受ける権利の帰属について共同研究の際に契約条項を設けない企業は少ないだろうが、弁理士として間に入って共同研究をまとめる状況になるときには、上記した点は非常に重要なポイントである。 共同研究のときって、会社同士は契約書を締結するけど、研究者は承継について同意している旨の法上の契約ってなされてるのかな??? 厳密に考えると、会社が勝手にやってるんじゃねぇの???  共同発明について、特許を受ける権利を譲渡する旨の同意の予約契約みたいなのって結べるのかな? 共同発明が完成しないことには、特許を受ける権利が共有に係ることはないから、予約同意なんてぇのができない場合には、共同発明が完成して始めて同意を要する法的状態ができあがるので、斯かる場面に厳密に73条を適用したら世の中廻らなくなるやもしれない。

 

 「特許権者から権利の享有の認められない外国人に特許権が譲渡された場合は、特許権それ自体が無効となるのではなく、当該譲渡が無効になると解すべきである。(94頁)」

25条1項柱書

 日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない外国人は、次の各号の一に該当する場合を除き、特許権その他特許に関する権利を享有することができない。

 25条違反は拒絶理由であり(49条2号)、無効理由である(123条1項2号)。 また、特許がされた後において、その特許権者が25条の規定により特許権を享有することができない者になったとき(123条1項7号)、後発的無効理由に該当し、無効審決の確定により、123条1項7号に該当するに至った時から存在しなかったものとみなされる(125条)。

 権利能力がないということは、そもそも特許権者になり得ないということなので、斯かる外国人に特許権を譲渡するという法律行為自体が無効と考えるのかな? 権利能力のない外国人には、当然に、特許権の譲渡という手続能力がないという論理だとちょっと変だな。。。 この場合は、権利能力のない外国人との特許権の譲渡の契約自体が無効ということでよいだろう。

 仮に、譲渡が有効となると、特許権の移転は登録が効力発生要件なので(98条1項1号)、登録により特許権の移転は有効となるが、無効理由には該当しないと考えられる。 なぜならば、123条は、特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができると規定されており、123条1項1号では、その特許が25条の規定に違反してされたときに無効理由に該当するので、権利能力のない者に特許権が譲渡された場合は射程ではない。 斯かる無効理由は、25条に違反している者による特許出願について登録された場合が該当するからである。 また、123条1項7号の後発的無効理由では、その特許権者が事後的に25条に該当することとなった場合をいっているので、譲渡を想定しているとはいえないと思われる。 まぁ上記状況をこの後発的無効理由で読めなくもないけど、そうすると、譲渡、移転までは有効で、無効審判により特許権が無効とされない限り、特許権が存続することとなってしまう。 

 

 捏ねくり回しの与太話2丁であった。

 

 

本日のキーワード: 選択非免除者の負担って大きいのぉ。

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2006年7月24日 (月)

中山特許法上【その3 ~85頁】

へぇーへぇーーへぇーー♪

 「「契約、勤務規則その他の定」とは、単に使用者と従業者の合意、すなわち契約だけを意味するものではなく、それ以外の方法によっても権利承継等の条項を設けうるということをも意味しており、使用者の一方的意思表示によっても、権利承継等の定めをなすこともできると解すべきである(78頁)。」

 「権利譲渡等の方法が契約に限定されるとしたならば、もし従業者がそのような契約の締結を拒否したら、使用者としてはもはや権利承継等を求める方法がないことになってしまう。・・・、契約によらない使用者の一方的意思表示による定めも有効と解釈せざるをえない(78頁)。」

 改正本を熟読していないので何ともいえないが、この説には乗れない気が若干する。 この説に乗ると、契約は必要なく、使用者の一方的な意思表示で特許を受ける権利や特許権の承継をすることができるとなるが、そうすると、35条4項との整合性がとりずらい。 承継は、使用者の自由意志なのに、対価については両者の協議が必要というのは、どうもしっくりこない。 特許を受ける権利や特許権の承継が一方的な意思表示のみで有効な場合に、従業者としては、承継を認めてないのに、対価については協議に応じるって???

 

35条4項

  契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであってはならない。

 

 とある。 特許を受ける権利等の承継についての定めと、相当の対価についての定めについては、別の法律行為と考えられる。 特許を受ける権利の承継についての契約、勤務規則その他の定めは、使用者が一方的に定めることができ、それに併せて対価について定めるのも可であり、使用者と従業者の協議があれば、それが参酌されるということだ。 ただ、対価の定めについて協議がなくても、相当の対価が不合理と認められなければいいわけなので、中山説に乗ると、全て使用者の自由意志で対価まで含めて定めることができるといえようか。 ただ、自由意志で勝手に決めてもいいけど、その算出方法等で不合理な場合には、従業者との協議がないことを理由として、35条5項の適用ということであろう。 ようは、法律論的には、使用者が勝手に定めても、職務発明をなした従業者の権利が不当に狭められなければよいということであろう。 手前味噌に納得である。

 

 「従業者が第三者に特許を受ける権利を譲渡した場合は、使用者と第三者は対抗の関係に立ち、先に対抗要件を取得したものが完全な権利を取得するだけのことである(83頁)。」

 特許を受ける権利は、発明者に原始的に帰属する(29条1項柱書)。 そして、特許を受ける権利の予約承継についての契約等存在する場合には、一端、発明者に帰属したとしてもその瞬間すなわち発明完成と同時に特許を受ける権利が使用者に帰属すると考えられる。  しかしながら、上記によれば、斯かる場合であっても二重譲渡はあり得るとされていて、この場合、従業者から使用者への予約承継による特許を受ける権利の承継も有効であり、従業者が第三者にした特許を受ける権利の承継も有効となる(34条1項が存在しているのも、特許を受ける権利の二重譲渡が予定されているからというのを習った覚えがある。)。 特許出願前の特許を受ける権利の承継は出願が第三者対抗要件である(34条1項)。 この場合、使用者が、職務発明について特許を受ける権利を承継しても出願する前に、第三者が出願してしまったら、対抗できないこととなる。 しかも、後願は、冒認出願となる。 この場合、予約承継による特許を受ける権利の承継自体は有効であると思われるので、そうすると、使用者は、特許を受ける権利と実施する権利を享有したこととなり、混同により、実施する権利は消滅する? となると、この場合、使用者には法定通常実施権も発生せず、不当ではないのか? 先願主義である以上、後願となったのであれば保護を受ける価値なしという考え方でいいのか? こういったときは、35条1項の通常実施権は混同により消滅したとはされないと考えることとなるのであろうか?? そうであれば、少なくとも使用者には、通常実施権は残るので、法的には由ということだろうけど。。。

 

 「特許出願後登録前の特許を受ける権利の譲渡は、届出が効力発生要件となっていはいるものの(34条4項)、・・・、その届出に際し譲渡証書の添付は必要なく、使用者に出願の権原さえあれば単独で届出をなしうる(81頁)。」

 

特許施行規則5条

 特許を受ける権利の承継を届け出るときは、その権利の承継を証明する書面を提出しなければならない。

2項 特許庁長官は、特許を受ける権利を承継した者の特許出願について必要があると認めるときは、その権利の承継を証明する書面の提出を命ずることができる。

 

 施行規則5条1項上必要ともよめるけど、どうなんでしょ。 2項を読むと、特許庁長官が必要と認めた時に書面の提出が命ぜられるので、原則必要ないとも読める。 ただ、特許を受ける権利の出願後の承継についての判例では、確か単独でできたのにしなかったのだから、、、って判示されていたような気もする(判例100選の確認必要)。

  

 「特許登録後の譲渡は登録が効力発生要件であり(98条1項1号)、その登録は、登録権利者と登録義務者の双方の申請によるか(特許登録令18条)、登録義務者の承諾書を添付する必要がある(特許登録令19条)。 ・・・、申請という従業者の協力があって始めて権利が移転する。 ・・・、従業者が協力を拒否した場合には、使用者は判決を得て単独で権利移転登録をすることになる(特許登録令20条)(82頁)。」  (登録権利者=使用者、登録義務者=従業者となる。)

 

特許登録令20条

 判決又は相続その他の一般承継による登録は、登録権利者だけで申請することができる。

 

 特許を受ける権利を有する旨の確認訴訟を提起しても、本人が出願してないと認められないんじゃなかったっけ?  認められるのは、出願していていつのまにか、特許を受ける権利の承継がなされていて、勝手な移転により出願人としての地位を喪失した場合のみであった気がしたが・・・。  職務発明のときは、確認訴訟を提起すれば認められるってことなのね(これまた、判例100選の確認必要だ)。

 

へぇへぇへぇー パート2

 「特許出願せずにノウハウとして秘匿したとしても、対価については特許法35条の適用はあり、事実上独占的地位を取得したことによる利益を考慮して対価が算定される(85頁)。」

 

 確かに、35条3項には、特許を受けたときに対価の支払いを受ける権利を有すると規定されているわけではなく、特許を受ける権利の承継があれば、相当の対価の支払いを受ける権利を有するとあるので、その後、特許出願せずに、ノウハウとして秘匿したとしても、従業者は対価を得ることができるのだ。 ふむふむ。

 

35条3項

 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払いを受ける権利を有する

 

 

本日のキーワード: 職務発明てんこ盛り。

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2006年7月23日 (日)

中山特許法上【その2 ~76頁】

 前回はぐだぐだになった。。。 参照部分を見てみたら、うんうん考えてた部分が後にでてるようである。 考え方が間違ってなかったようなので由としよう。 しかし、真面目に特許法を勉強しようと思うと、民法の知識は絶対的に必要だなぁ~と痛感する。 やっぱし、民法の特別法だからね。 弁護士とれば、弁理士ついてるしなぁ。。。 しかし、大量合格者時代を終えつつある今、量から質の時代へと弁理士の世界も転換していくようで、弁理士の理系としての専門性うんぬんを今後求めていくなら、弁護士だからって弁理士を与えている制度をかえなきゃいけないよね。 

 

≪論点1≫

 使用者が特許を受ける権利の譲渡を受け、さらに当該使用者がそれを従業者に返還しあるいは第三者に譲渡し、第三者が特許権を取得した場合にも、使用者に通常実施権は残るか?(74頁)

「従業者から使用者に特許を受ける権利が譲渡された段階で、使用者は特許を受ける権利と実施する権利の双方を取得したのであり、使用者の実施権は混同により消滅する。(74頁)」

 

 混同により消滅するなる中山説の方がしっくりくる。 

 従業者が職務発明につき特許権を取得すると、35条1項により、使用者には、法定通常実施権が発生する(35条1項)。 その後、使用者が従業者から、特許権を取得すると(98条1項1号)、法定通常実施権は混同により消滅する。 ← 根拠条文は何になるのだ?!? 特許を受ける権利の譲渡を受けた場合も、中山説どおり、特許を受ける権利と実施をすることができる権利とを使用者が同時に有することになるので、使用者の有する実施をする権利は消滅すると考えて問題はないだろう。 そうでないとするならば、職務発明について、使用者が予約承継を受け特許権を取得した場合、第三者に特許権を譲渡したり、専用実施権を設定したりすることがあると思われるが、法定通常実施権が残るとするとちょっと変だよね。 譲渡により取得した特許権者に対しては、法定通常実施権を主張できるし、専用実施権者に対しては、法定通常実施権を主張できるは、特許権者の承諾あれば(これ、使用者の承諾ということになるけど)、法定通常実施権の移転できるわと、やりたい放題になる。 

 ただ、ここって微妙な問題だ。 使用者が法定通常実施権を有するのは、あくまでも、従業者や従業者が特許を受ける権利を第三者に譲渡した場合に、特許権が発生した場合である(35条1項)。 となると、特許を受ける権利の段階における混同って微妙な考え方ではある。 

 とはいえ、職務発明制度の趣旨から考えれば、一度特許権を取得し得る立場にたったのに、その後、その権利を他人に譲渡したにもかかわらず、35条の通常実施権を持ち出すというのは、なんとなくフェアじゃないのは理解できるので、混同により消滅という中山説に軍配をあげるということで、決着。

<結論>

 35条の通常実施権を有する使用者が、特許権の譲渡を受けた場合には、混同により斯かる通常実施権は消滅する。 したがって、その後、特許権を第三者に譲渡した場合に、使用者は、法定通常実施権(35条1項)を主張することはできない。 となると、特許を受ける権利を一度使用者が取得した場合には、その後、特許を受ける権利を従業者に返還した場合や、第三者に譲渡した場合に、特許権が設定登録されたとしても、使用者は、一度は特許を受ける権利と実施する権利とを同時取得したことになるので、実施する権利は混同により消滅し、使用者は、法定通常実施権(35条1項)を主張することはできないと解する。

 

≪論点2≫

 特許法35条における使用者の通常実施権は、特許を受けたとき発生するように規定されているが、・・・、特許が付与される前に、使用者が当該発明を実施することができるか?(75頁)

 補償金請求権の場合に、先使用権者や35条の通常実施権者に補償金請求権を請求し得るかという論点があって、これは、青本上答えがでている。 厳密に考えると法上の状況は異なるので同列に論じることはできないとは思うけど、理解するという点でなら同じに考えてもいい気がする。

(青本 188頁)

 その実施者が、その出願に係る発明が特許になった場合に、その特許権に対し有効に対抗できる地位、たとえば先使用(79条)、職務発明の場合に使用者等の地位を有する者であるときは、補償金を支払う義務を負わない。

 青本の方が覚えやすいし、また、青本の記載の方が弁理士試験では説得力があるだろう。 ただ、実施できるか否かは、やはり、中山先生の書いているとおりでいいと思われる。

「35条の趣旨は、資金や資材等の提供者である使用者と、技術的思想の提供者である従業者との間の利益を調整するということにあり、この趣旨は特許の付与の前後で変わるものではない。 したがって、特許付与前においても、使用者は当然に無償で職務発明を実施し得ると解すべきである(76頁)。」

<結論>

 35条1項の法定通常実施権は、特許権が設定登録されることにより発生する(35条1項、66条1項)。 したがって、特許権が設定登録される前に、使用者が当該発明について実施権原を有するのか否かが問題となる。 特許権の設定登録後であれば、使用者は通常実施権を有しているので、正当権原として特許発明の実施をすることができる。 しかるに、特許権の設定登録前には、実施できないとすると、出願公開後、所定の要件を満たすことにより、使用者が実施すると補償金請求権の行使をされることとなる(65条1項)。 特許権の侵害とはならないのに、補償金請求権の行使を受けるというのは、不当である。 したがって、特許権の設定登録前であっても、使用者は当該発明の実施をすることができると解する(2条3項)。 

 また、35条の制度趣旨は、使用者の利益を考慮して、特許権の設定登録後において実施権原を認めることにあると考えられるので、特許権の設定登録前において、使用者の権原を縮小して考えることはその制度趣旨を滅殺するものといえ、不当であるといわざるを得ない。 したがって、特許権の設定登録前についても、使用者は当該発明の実施をすることができると解する(2条3項)。 

 

 

本日のキーワード: オレは中山信奉者か?! 

 

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2006年7月21日 (金)

中山特許法上【その1 ~73頁】

 中山特許法を読むことにした。 結果が出るまで何もしないわけにもいかないし、かといって、青本・条文を今から必死こく気にもならんし。 落ち着いて読めるこの時期ということで、熟読バージョン。

 

35条2項

 従業者がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。

 

 35条2項の反対解釈として、職務発明については予約承継する旨の契約が有効であるとされているが、これはあくまでも、予約承継する旨の契約を結んでも無効とされないというだけであって、「使用者には、職務発明につき、当該従業者に対して、発明後に譲渡等の請求をする権利は当然にはないことになる。(67頁)」

 勘違いしがちだけど、職務発明の特許を受ける権利はあくまでも発明者である従業者に帰属し、いまどきないだろうけど、予約承継する旨の勤務規則等なければ、使用者である会社は指くわえてみているしかないということだ。 従業者が首を縦に振らないかぎり、会社は特許権や特許を受ける権利の承継を請求できないのね。 ただ、法定通常実施権が発生するだけなのだ。

 なるほど。

 因みに、35条2項反対解釈ってよくいう気がするけど、(青本 108頁)には、

 職務発明以外の発明については発明がされる前に特許を受ける権利または特許権の承継についての予約をしても無効である旨を定め、裏から職務発明については、発明がされる前に特許を受ける権利または特許権の承継について予約をすることができる旨を明らかにした。

 とある。 「裏」って反対なのかな??? 裏命題=反対解釈でいいみたいよの。

 

 「使用者の実施権は、従業者が当該特許権を第三者に譲渡した場合や、専用実施権を設定した場合であっても、使用者は登録なしに新特許権者等に対抗できると規定されている。 しかし、それをさらに進め、使用者の通常実施権の移転についても登録なく第三者に対抗できるとする説もあるが、不当である。 99条2項は特許権が譲渡されたり、専用実施権が設定された場合の規定であり、通常実施権が譲渡された場合は99条3項により、たとえ法定実施権であっても登録が対抗要件とされている。 規定の上では、そうなってはいるものの、現実には99条3項が適用される事例は考えにくい。(74頁)」

 

 「使用者の実施権は、従業者が当該特許権を第三者に譲渡した場合や、専用実施権を設定した場合であっても、使用者は登録なしに新特許権者等に対抗できると規定されている。」の部分は、99条2項なので理解できる。  

 「通常実施権が譲渡された場合は99条3項により、たとえ法定実施権であっても登録が対抗要件とされている。」がよく分からない。 よく考えてみると、条文上明らかなので、当然のことをいっているということでいいのかも。 あくまでも、通常実施権の移転については、登録が第三者対抗要件ということ。 

(青本 259頁)  第三者に対して通常実施権の移転等を主張することができないということである。 たとえば、甲から通常実施権を譲り受けた乙が移転の登録をしない間に丙がさらに甲から譲り受けたときは、乙は丙に対して通常実施権を取得していることを主張し得ないから、丙に対する関係では甲はなお通常実施権者であり、したがって、丙は甲から通常実施権を譲り受けることができる。

 ようするに、第三者対抗要件ってことは、二重譲渡が予定されているということだろう。 しかし、

99条3項

 通常実施権の移転、・・・は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。

とあって、譲渡以外の移転の場合でも、登録が第三者対抗要件である。

 法定通常実施権者である甲から乙に一般承継がされた場合に、登録されてなければ、乙は第三者対抗要件を有さないので、特許権者の承諾を得れば、甲は丙に譲渡できるってことか???  なんか釈然としない・・・ 

 とはいえ、通常実施権が登録されることは基本としてないだろうから、「規定の上では、そうなってはいるものの、現実には99条3項が適用される事例は考えにくい。」とあるようにあんまり気にする条文ではないだろう。 移転だけ登録するなんてことはできないから、当然に、前の通常実施権者の登録がされていて初めて、その移転の登録が意味あるものといえるだろうから。

 

 法定通常実施権の移転は、94条1項

 通常実施権は、・・・の裁定による通常実施権を除き、実施の事業とともにする場合、特許権者(専用実施権についての通常実施権にあっては、特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。

 

 だから、職務発明による法定通常実施権についても、

①実施の事業とともにする場合

②特許権者の承諾を得た場合

③相続その他の一般承継の場合

には、移転できる。

 

 

本日のキーワード: 重箱の隅をつついてはいけない。

 

 

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